記憶には、「快不快」の強度情報が伴っている
■記憶とセットの快不快の情報
三角形は、四角形やその他の多角形に比べると、辺に挟まれた内角が小さいことが多い。つまり尖っていることが多い。三角のもので遊んでいて痛い目にあったからかどうかはわからないが、三角は、痛い、という感覚と繋がっている。図形の中で心地良いのは○で、×は避けたい。──ちなみに、○×方式は海外では通用しない。該当するところにチェックマークとして、×を記入するのは海外では割と普通。
まだ言葉を話せなかった頃の私を連れて、母がいつもの生活ゾーンを離れてある方面に行こうとすると、私が突然大泣きをする。
母は何で泣くのか理由を考えてみるに、そっちに、予防接種を受けた病院があるからだ、と思い至ったとのこと。私には、そっちの風景が、注射の恐怖と共に記憶されていたのだ。
幼稚園で、カエルの歌(カエルノウタガキコエテクルヨ……)を輪唱で歌う、という時間があった。同じ歌をズラして歌うだけで、パズルがパシっと嵌まるような高揚感があった。以後、静かな湖畔の輪唱含め、音楽の授業やバス遠足などの数々の体験を経て、複数パートが絡む合唱は、心地良さと固く結びついている。
このように、ありとあらゆる記憶には、快不快の強度情報が伴って(例えて言えば、ラベルが付いて)いる。
ところで、怪我した時の痛みと、ダッシュして酸素不足で苦しいのでは、不快の種類が違うように、快不快には複数の感覚要素が絡んでいる。
本記事では、そういった要素を総合した強度指標という意味で、快不快の強度情報という言葉を用いる。
■アクションの優先度と快不快の強度
記憶と快不快の情報がセットになっていることで何が起こっているか。
将来予測される不快(危険)を回避し、あるいは、快を実現するためのアクションを起こすトリガーとして、しかもアクションの優先度の決定に、快不快の強度情報が使われているということである。
病院の方に行くことに伴う強い不快感は、対応の優先度が高く、そっちに行くのを回避すべく号泣する、というアクションのトリガーになっている[図2]。
また、合唱の心地良さのレベルも高いので、たとえば本記事執筆中のバックグラウンドミュージックに、アカペラ合唱曲を流すアクションの優先度は高い。一方、三角形に、痛い、という若干の不快ラベルが付いてはいるものの、実質優先度ゼロで、家の中から三角形のものをすべて排除する、といったアクションのトリガーにはならない。
なお、快不快の強度には、リーズナブルに優先度処理できる範囲がある。麻薬の快から逃れるのは困難で、生活が破綻してしまうこと。目を覆いたくなる悲劇はトラウマになり、長い間それに捉えられてしまうことは広く知られている。
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