「従業員数が少ない会社」ほど離職率が高い
小規模事業者(従業員数20人以下)の社長は「うちの従業員は会社のことを想ってくれている」と考えるケースが多いのですが、社長が思うほどには、従業員に会社愛はありません。従業員には自分の生活がありますから、まずは自分や家族が大事であるのは当たり前です。
もっと良い船があれば、そちらに乗り換えようと考えているはずです。人材の流動性が高いことは従業員50人未満の企業の特徴だと思いますから、定着率を上げる工夫が必要になってきます。
製造業で顕著…今「職人気質の職場」で起きている問題
たとえば、製造業では時代のニーズに応えるために、生産性を上げようと機械を導入することがあります。その結果、人の手でやっていたことが自動化され、それまで1日あたり製品を20個しか作れなかったのが200個作れるようになったりします。
すると、ベテラン従業員で手作業しかしたことのない人は、自分の存在価値が揺らぎます。
一方で人の手で作ったほうが精度は高い部分もありますから、技術の継承ができなくなっている面もあります。製造業の小規模事業者の場合、20代、30代が少なく、50代、60代がバリバリ活躍しています。
他の業種と比較すると、20年ほど世代が違います。20代の新入社員が50代のベテラン社員に直接教えてもらうとなると、なかなかうまくいきません。
20代にしてみれば分からないことがあっても聞きづらいですし、50代のベテランにしても、世代が違うのでどう教えればいいか分かりません。
職場をうまく回すカギは「最前線から引いた70代社員」
50代の従業員が新入社員の頃は、先輩の仕事を見よう見まねで覚えた時代ですから、自分自身が教えてもらっていないので、新入社員に教えようと思ってもうまくいかないのです。加えて50代の従業員は納期や品質などに責任を負っているので、どうしても厳しくなってしまいます。
ある製造業の小規模事業者では、70代の職人が退職せずに仕事を続けていました。50代は第一線で仕事をしなければならないので、新入社員に仕事を教えている時間がありません。
そこで新入社員が何か分からないことがあると、70代のベテランに聞きにいきます。70代の職人は第一線から退いていますので、時間に余裕がありますし、若い従業員に自分の技術を承継できるのはうれしいことなので、喜んで教えます。そんな関係ができると、社内がうまく回っていきます。
「長く働ける人」を減らしてしまう、もう1つの原因
このように製造業は職人気質の残る職場ですので、健康面でも問題を抱えていることが少なくありません。医師の指導に耳を傾ける人は少なく、自分勝手に判断してしまう人が少なくないのです。
たとえば、糖尿病の人が「食べなければいいんだろう」とジュースばかり飲んでいたりします。これは逆効果です。フルーツジュースを毎日飲むと、糖尿病リスクが上がるという調査結果もあります。それよりも、朝はしっかり栄養を取って、飲み物はジュースではなく、水やお茶がいいのです。
あるいは、病院を受診したとしても、血液検査して薬をもらったから、それで大丈夫だろうと考えてしまったりします。主治医にしても、受診後のフォローまではできないので、症状が悪くなると薬を増やすしか方法がないようなケースもあります。
職人気質の人はコミュニケーションが苦手な面もあります。病院を受診しても、主治医と話をするのは数分程度でしょう。その中で現在の状態を正確に伝えるのは難しい面があります。また、生活をどう改善すればいいかなど、自分から主治医に聞くこともあまりありません。
たとえば「最近、暑いからジュースをたくさん飲んじゃうんだけど大丈夫かなあ」と気軽に聞けるようなら、主治医もアドバイスができるのですが、そうではないケースが大半なので改善できません。
「上司の喫煙」が嫌で辞める若手世代も多数
また、製造業には、いまだ喫煙の問題が多いのも現状です。若い世代は吸わなくなっていますが、ベテランは禁煙できないケースが多いようです。
直属の上司は忙しくてなかなか相談できず、話ができるのは上司がたばこを吸うときだけ、ということも少なくありません。それに耐えきれず若手従業員が辞めていくのですが、会社はそれに気づいていないことが少なくありません。
ある企業では、私がそれに気づいて、相談できる場所をつくることを提案し、相談室をつくってうまくいくようになりました。
産業医の立場で、企業を継続的に見ていくと気づくことは多くあります。その中には簡単に改善できることも多く、一つひとつ解決していけば、従業員の健康や職場の働きやすさは、ずいぶん改善するはずです。
富田 崇由
セイルズ産業医事務所
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