(※画像はイメージです/PIXTA)

近年、従業員の健康管理の一環として、いわば会社の顧問医である「産業医」の導入が進んでいます。従業員数が50人未満であれば、産業医を選任する義務はありませんが、やはり経営者1人で健康管理に取り組むのは難しいのが実情です。効果的に導入し、活用するにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは社内に「産業医反対派」がいたケースを基に解説します。

従業員が「産業医の導入」を阻むケースもあるが…

企業によっては、産業医が健康面で関与することに、従業員が抵抗を示すこともあります。「病気は個人的なこと」と考えている従業員も少なくありませんので、仕方のない面もあるのですが、従業員に反対されたからといって、健康管理を諦めてしまうと、企業の成長あるいは存続にさえも悪影響を及ぼすことがあります。

 

美容院を何店舗か経営している企業がありました。その企業には、メンタル不調の人がとても多かったのです。社長から「メンタル不調をなんとかしたい」との依頼があり、関わるようになりました。筆者らは、最初に健康管理の土壌づくりをするために、健康相談窓口の設置を提案しています。職場の話をしやすい環境をつくることが大事だからです。

 

この企業の場合、従業員5人ほどの事業所が5ヵ所ありました。トータルの従業員数は25人ほどになります。このうちの一つの事業所だけ産業医が健康管理に関わることに最後まで反対していました。仕方なく、4つの事業所のみをサポートすることになりました。

 

実際に4つの事業所のサポートを開始してみると、多くの問題が浮かび上がってきました。一般的な企業よりもメンタル不調が多く、辞めていく従業員も少なくありませんでした。

 

 

面談を重ねる中で見えてきた課題の一つは、職場に休憩する場所がなかったことでした。従業員は仕事のときはもちろん、休憩のときもずっと一緒に過ごしていました。後輩にしてみれば、ずっと先輩と一緒に過ごさなければならないのです。

 

自由な時間がなく、常に業務をしていなければなりません。そんな環境に耐えられない従業員は少なくありません。まずは、この点から改善を試みました。15分でもいいから自由になる時間、1人になる時間をつくる取り組みは、従業員からも評判は良かったのです。

 

産業医は「事業所全体」に導入しなければ逆効果

受け入れをしなかった事業所の店長は、社長と考え方にすれ違いがありました。店長からすれば、福利厚生の一環として、メンタル不調の改善に取り組む前に、もっとやるべきことは他にあると考えていたのです。

 

たとえば、夏であれば水分補給をする設備が欲しい、あるいは、従業員のためのロッカーが欲しいとか、現実的な要望があったのです。だから、健康管理をするという社長の思いは届かなかったのです。

 

社長としても、設備の面を無視していたわけではありません。社長と話をしてみると、次年度の予算に入れていたのです。すぐに解決したかったのですが、資金力がないので少しずつ、整えていこうと考えていたのです。一方で従業員のメンタル不調はまったなしの状態だったので、まずは、健康管理を優先しただけなのです。

 

結局、社長の思いと店長の思いのすれ違いから生じたトラブルです。そこで、社長、店長、私の三者でじっくり話をしました。社長の思いを知った店長は、硬化させていた態度を一変させました。店長にしても、スタッフのことを思えばこその反発だったわけですから、根本的な思いは社長と同じです。

 

それがうまく伝わらないために、中堅従業員と対立構造になってしまうことは、従業員数20人以下の「小規模事業所」ではよくあることです。一度、こじれてしまうと、当事者同士だけでは感情的になってしまい解決が難しいものです。そこで産業医のような第三者が入って、双方の思いをじっくり聞くことで解決の糸口が見つかることがあります。

 

このような社内での抵抗があると、その部署を除いて健康管理を導入するケースが多いのですが、それでは余計にこじれてしまいます。従業員のために健康経営に取り組もうとしているのに逆効果です。まずは、そのような抵抗をどう説得するかに取り組むべきです。

 

「社内からの反発」は健康経営を一気に進めるチャンス

前述のケースのように、ちょっとしたボタンの掛け違いが原因になっていることは少なくありません。社長と抵抗勢力のリーダー的な存在がじっくり話し合うことで解決できることも多いでしょう。それによって抵抗勢力が賛成に回ってくれれば、一気に取り組みが進みます。

 

抵抗勢力になっているということは、それだけ社内での影響力が大きいということです。抵抗勢力が現れた場合には、むしろチャンスと考えて解決に取り組むことが重要です。

 

とくに従業員数が10人前後の小規模企業ではこのようなトラブルが起きやすい傾向にあると感じます。ですから、筆者らが産業医としてお手伝いを始める際には、最初に会議をするようにしています。いくつかの店舗を運営しているのであれば、各店長に集まってもらい意見を聞きます。

 

社長がカリスマ的な存在であれば、店長も従うのですが、従業員思いの社長ほど優しい人が多く、従業員の話を聞こうとするので、店長一人ひとりの意見を尊重し過ぎて収拾がつかなくなります。それが売上トップの店舗の店長であれば、なおさらです。社内だけではうまくいかない場合には、外部の力を借りるのも一つの方法だと思います。

 

 

富田 崇由

セイルズ産業医事務所

 

 

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※本連載は、富田崇由氏の著書『なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか

なぜ小規模事業者こそ産業医が必要なのか

富田 崇由

幻冬舎メディアコンサルティング

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