少子化問題が取り沙汰されつつも、日本の保育園需要は依然として高い水準を保っています。それと同時に、保育士の待遇の悪さや、保育業界の古い体質が問題視されています。この問題は多くの人が知るところですが、なぜ一向に改善が進まないのでしょうか。また、解決の糸口はあるのでしょうか。保育園ビジネスの実情を探ります。

保育園業界にはびこる「古い体質」が解消されない理由

これまで認可保育所は、社会福祉法人などが運営するのが一般的でした。社会福祉法人のすべてがそうだとは言いませんが、やはり、社会福祉法人には古い体質が残っている印象があります。

 

新設する保育園の準備をしていたときのことです。当時は園長を含め、新設する保育園の職員はすべて新規で採用していました。備品の配置などを手伝っていたら、やたらと「ありがとうございます」「すみません」と声を掛けられ、極めつけは、園を出ようとしたら、玄関の外に整列して見送ってくれたのです。あとで園長に聞いたら「前の園ではそうだったから」と答えました。どれだけ既存の保育園の代表が「おエライさん」なのかと思いました。

 

保育業界では保育士の一斉退職が問題となっています。その多くが古い価値観から来るパワハラだったり処遇の悪さだったりします。

 

保育園は圧倒的に女性比率が高い職場です。全国保育協議会の調査によると2016年の段階で男性保育士の割合は3.9%となっており、女性比率は美容業界や介護業界よりも高いのです。

 

一方で、理事長のような保育園の代表者はというと圧倒的に年配の男性が多く、まだまだ、古きよき婦人像という妄想にとらわれている方を散見します。

 

もっとも、これは保育士側にもいえて、職場内での問題などを相談すると「女の職場ですからね」でまとめられてしまうことがあります。その都度、「仕事と性別は関係ありません」と筆者が注意するのですが、そうした古い価値観や慣習は、保育の現場で根強いように感じます。そして若い保育士にはそれが通用しなくなってきていると思います。

「妊娠する気がある人は辞める」暗黙のルールに唖然

保育業界は新卒採用が一般的であることも理由と考えられます。2020年の第一生命保険の「大人になったらなりたいものベスト10」で、保育士は小学生の女子で第2位にランクされるほど人気の高い職業です。そのため、短期大学などの保育士養成校を卒業して保育士になる新卒が雨後の筍のように発生するのです。

 

保育園に勤務するステレオタイプの保育士は若い女性であることが多いのですが、あたかも保育士を使い捨てるかのように、正社員の保育士が退職したら、パートで穴埋めをして、正社員は次の新卒で補充という保育園も少なくありません。

 

2013年の厚生労働省の社会福祉施設等調査によると、保育士の経験年数が8年未満の割合が49.2%です。老舗の企業で10年以上働いている社員が半分しかいないというのは考えられないので、それだけ、保育園は、若い人がどんどん入り、どんどん辞めていく業界なのです。

 

実際、筆者たちの保育園に面接にきた保育士に前職を辞めた理由を聞くと「妊娠する気がある人は辞めるというのが暗黙のルールだから」と答えた方がいます。妊娠したからではなく、妊娠する気があるだけで退職なのです。とても人手不足といわれている業界とは思えません。なお、その方は、筆者たちの保育園に入社して翌年に妊娠、出産し、今春に復帰予定です。

 

おそらく、すべては保育所の収入が子どもの人数で決まってくることが原因ではないかと思います。一般的な企業では、経験値を上げることで売上向上にもつながるかもしれませんが、保育所では、1年目の新人も20年目のベテランも保育士資格さえ持っていれば収入は一緒です。言い換えれば、定期昇給するほど保育所に残るお金は減っていくのです。結果的に、給料の安い新人保育士を増やし、給与もほとんど上がらないという保育業界の処遇の悪さにつながると考えます。

 

筆者たちの保育園で、その昇給額の高さ(一般企業としては常識的な額)に驚かれるのは、筆者が理事長報酬のように保育園からの収入を受け取っていないからです。そもそも、公定価格とは子どもを保育するための費用ですから、そこに理事長報酬が上乗せされているわけではありません。理事長がトップにふさわしい報酬を得ようとすれば、それだけ保育士への分配率を下げないといけません。筆者は、本業で役員報酬を得ていますから、保育園から報酬を得る必要性がなく、その分を現場へ還元できるわけです。

 

もちろん、筆者は起業家ですから奉仕の精神だけで保育園を運営しているわけではありません。

 

中小企業の課題は圧倒的に人材不足です。自社に保育園を持っていることは人材募集で驚異的な武器になります。筆者たちの会社にはデイサービスやコンビニなど人手不足が社会問題になっている事業がありますが、保育園を運営してから人手不足で悩む必要がなくなりました。

 

人手不足の解消により、本業の利益確保が達成されるので、保育園で儲ける必要がありません。きちんと現場に還元すればいいのです。それでも、理事長報酬ほどではありませんが、お金が残るのが保育ビジネスです。

 

筆者が経営者に小規模保育園をお勧めするのは、保育ビジネスという新しい収入源を得ましょうというよりは、人材を確保し、本業をさらに発展させるために保育ビジネスに参入してみてはと思うからです。

 

ただし、ミイラ取りがミイラになってしまわないように、コンプライアンス意識をしっかりもち、保育士の処遇改善を成し遂げられる方が求められます。

 

 

河村 憲良

株式会社Five Boxes 代表取締役

 

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