弟に関連会社の管理運営を任せるも、情熱が薄れ…
嵐山産業は京都で昭和の初めから金物製造業を営んでいます。経営に携わっているのは、社長である嵐山清一と専務である弟順二であり、清一の妻と息子も取締役として経営に関与しています。
清一は業界団体の理事長に就任したこともあり、業界では名が知れた人物です。
順二は嵐山産業の販売部門を統括していますが、関連会社である嵐山興産(嵐山産業の下請け)の取締役でもあり、代表権はありませんが、実質責任者として全ての業務を取り仕切っています。
嵐山興産は元々清一が設立した会社です。設立当初は、清一が2社とも管理していましたが、業界関係等の対外的な業務が増えてきたため、時間的に2社の管理は難しくなってきました。
そこで清一は、弟である順二に嵐山興産の管理運営の全般を任せることにしました。
順二は嵐山産業に入社したての頃、取引先に修行のため出向していた時期がありました。しかし、元々気性が荒いこともあり、上司とトラブルを起こし半年で会社に戻ってきたという経緯があります。
順二がそのような性格だったので、清一にすれば経営者として全て任すのは心配な面があり、代表権は清一が握ったままでした。
清一から管理運営の全般を任された順二はやる気満々でしたが、いつの間にか事業への情熱も薄れ、会社に貢献しようという気持ちがなくなっていました。
このような気持ちになるまでに、様々な葛藤があったとは思いますが、その後の順二の態度には目に余るものがありました。業務時間中にパチンコに行くこともありましたし、社外に出た際、清一への批判を同業者や取引先に対して口にするようになっていました。家業への協力姿勢も乏しく、身勝手な行動が目立つようになっていきました。
清一の家族は順二のそのような態度に不満を募らせており、お互いにうまくコミュニケーションが取れない状況となっていました。会社の業績は以前に比べれば改善してきているものの、借入金も大きいためさらなる利益の上積みが必要でした。
弟が死亡したら、面識がない子に株式を保有される恐れ
順二が保有している嵐山産業株式の買取りも、将来の懸念事項の1つです。
順二には子がいましたが、10年前に離婚しており、親権は別れた妻が持っていました。順二の素行が原因で離婚したため、離婚後、子に会うことはありませんでした。このような状況下で順二が死亡すると、順二と血がつながっているとはいえ、嵐山産業株式は経営に関係ない子に相続されてしまいます。
面識がほとんどない遠縁の人物に株式を保有されると、本業以外で余計な労力を使うことになりかねません。
株式に譲渡制限は付いていますが、相続による株式の取得は譲渡制限の対象外です。相続が発生したときに、相続人から株式を買い取ることができる「相続人等に対する売渡しの請求」に関する定めを定款に定めていないため、相続人に株式が取得されるのを防ぐことができません。仮に定款の定めがあったとしても、買取価額は当事者同士の交渉になります。
遠縁になればなるほど、会社の歴史や今後の発展に関して興味はないものです。最大の関心事は、株式をいくらで買い取ってもらえるかです。このような状況下では、高額の買取金額を請求される可能性が高くなります。
したがって、清一は順二から何としてでも株式を買い取りたいという思いがありましたが、不仲の状態では順二からも高値で買取請求されることも十分考えられます。事業を引き継がない側は、「金のなる木」を奪われた分その補償を求めます。事業を引き継ぐ側は、より安定した経営基盤を望むため資金流出を嫌います。
兄弟経営で成功するには、当初から役割と報酬、株式の帰属先を明確にしておくことが肝要です。
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