仕事のつらさも理解したところからスタート
「自分の価値観もない。勉強もしない。こんな子供にしてしまったのは、あなた方じゃないか!」と言いたくなるのです。よく、親や親方、先輩の後ろ姿を見て育つ、などと言います。
ところが今の親たちは、自分の後ろ姿を子供に見せていないのです。「僕はお父さんのような医者になりたいです。お父さんはすごい外科医です」と言う生徒がいました。「そうか。どんなふうにすごいんだい? お父さんはどんな医者なんだい?」と聞くと、答えられません。
「一度か二度、働いているところを見ただけですから……」
「何だって? それはおかしいぞ。見てもいないのに憧れているのか?」
「はぁ」
「じゃあ、どこがいいんだよ?」
「朝早く出掛けますし、人よりも稼いでいます。僕がここに来られたのも、お父さんのお陰だと思います」
「はあ? なんだ、それ。お前な、もっとちゃんとお父さんを観察しろよ。家に帰って来た時に、どんな顔をしている? くたくたな顔をしていないか? そんな時でも電話が入ってくるだろう? たとえ家で食事をしている時にも、電話がかかってくるだろう?」
「かかってきます」
「そんな時、お父さん、どんな顔をしている? 目つきが変わって、飛んでいくだろう?」
「はい、そうですね」
「それで帰って来た時はどうだ? 嫌そうな顔をしているか?」
「そういう時もあります」
「うれしそうな顔の時もあるか?」
「あります」
「そこだよ、それを見て、お前はどう感じるんだ?」
本当はお母さんがフォローしてあげるべきなのです。「お父さん、ほら、今日はうれしそうにしゃべっているでしょう? 満足そうでしょう? きっと治療がうまくいったのよ」というように、説明をしてあげるべきなのです。その一言で、大きな教育になるのです。
医者のやりがいや醍醐味、つらさが分かる。そういったことを理解して初めて、医者になる準備を始められるのです。動機付けもできるのです。それがうれしそうな、充実感を味わっている姿も見ていない。見せていない。逆に苦しくてつらい姿も見せていない。その苦しさ、つらさも分かったうえで、それでもやりがいを感じる。そんな職業観を持ってほしいのです。
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