ロジスティック曲線に当てはめた人類史――枢軸の時代
「生活満足度」「GDP成長率」「生産性向上率」「人口増加率」という4つの指標を用いると、コロナ直前の世界がどのような文脈の中にあったかを確認できます。そこで、これらの個別指標が示す文脈を統合的したときに何が見えてくるかを考えてみましょう。
少し大きな枠組みで、ロジスティック曲線に人類の歴史を当てはめて考えてみます。図表1を見てください。
ここでは人類史を4つのステージ、すなわち「文明化以前の時代」「前期文明化の時代」「後期文明化の時代」「文明化以後(高原)の時代」に分けて整理しています。
「文明化以前の時代」とは、今日の私たちの社会の基底をなすさまざまな抽象的な制度や仕組み、たとえば「貨幣」や「市場」や「宗教」などが考案・実装される前の時代ということです。人類の始祖がアフリカで誕生して以来、数万年にわたって続いたこの時代に転換点をもたらしたのが「枢軸の時代」でした。
人類が向き合った「一つ目の変曲点」です。「枢軸の時代」とはなにやら聞きなれない用語ですが、これはドイツの哲学者・精神科医だったカール・ヤスパースが、紀元前5世紀を挟んだ前後の300年ほどのあいだに全地球規模で発生した思想史・文明史的な転換点を指して名付けたものです。
一体、何が起きたのか?
この時代、古代ギリシアではソクラテスやプラトンによって哲学が、インドではウパニシャッドや仏教が、中東ではゾロアスター教が、中国では諸子百家による儒教が、パレスチナではキリスト教の礎となる古代ユダヤ教が、それぞれ生まれました。
不思議なことに、たった500年ほどの短い期間に、西はエーゲ海から東は中国まで、今日の私たちの精神・思想・科学の骨組みとなる考え方が全地球規模といってよい範囲で同時多発的に生まれたのです。
一般に、歴史の文脈で「近代」というとき、それは16世紀のルネサンス以降、啓蒙時代が始まってから現代までのあいだということにされていますが、筆者はこの「枢軸の時代」が、近代の特徴とされる「人間主義」「合理主義」「自由主義」の萌芽であったことから、これを「長い近代の始まり」と考えています。
あらためて思い返してみれば、そもそも「近代の始まり」とされる「ルネサンス」という言葉はもともと「再生・復活」を意味するフランス語なわけですが、これは「枢軸の時代」にあった「古代ギリシア・古代ローマの文化」を「再生・復活」させるということですから、そこに通底する精神性が見て取れるのは、当たり前のことだとも言えます。
今日の私たちは、古代ギリシアの哲学者、プラトンが残した著作を、それほど違和感なく私たちの日常感覚に照らし合わせて読むことができますが、これはつまり、「枢軸の時代」においてすでに、現在の私たちの精神の基底をなすものが出揃っていた、ということを示唆します。