人類史をロジスティック曲線に当てはめて考えます。「一つ目の変曲点」は古代ギリシアで哲学が生まれたころの「枢軸の時代」。そして「二つ目」は今われわれが迎えようとしている局面である、と山口周氏は指摘します。その移行はコロナによるパンデミックが後押しすることとなるはずです。ロジスティクス曲線上に整理された人類史とこれから迎える変化とは。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

アフターコロナ、「グレートリセット」が意味するもの

みなさんもご存じの通り、2020年初頭、中国の武漢から端を発した新型コロナウイルスによる災禍は世界中に広がり、いまだに世界的な収束・安定はまったく見えていない状況にあります。

 

この先、このパンデミックが今後、どのように推移していくのかについてはまったくわかりませんが、現時点ですでに、いくつかの大きな社会的変化が発生しており、それはおそらく不可逆な変化として私たちの社会を大きく変容させると思われます。

 

2020年6月、私自身も分科会のメンバーとなっている世界経済フォーラム(通称ダボス会議)は、2021年1月に開催される年次総会のテーマを「The Great Reset=グレートリセット」にすると発表しました。世界経済フォーラムを創設したクラウス・シュワブ会長は、この「リセット」が意味するものについて、次のように答えています。

 

世界の社会経済システムを考え直さないといけない。第2次世界大戦後から続くシステムは異なる立場のひとを包み込めず、環境破壊も引き起こしている。持続性に乏しく、もはや時代遅れとなった。人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきだ。

日本経済新聞2020年6月3日記事より

 

 

では、この強迫的なシステムをどのように「リセットする」のか?シュワブはここで「人々の幸福を中心とした経済」という言葉を用いています。

 

およそ百戦錬磨のビジネスマンにして経済学博士でもある人物から聞かれる言葉とは思えないようなファンタジックな指摘ですが、このビジョンにも、私たちの社会が、この後向かっているのが「停滞の暗い谷間」などではなく「明るく風通しの良い高原」なのだ、という楽観的な希望が示されているのがわかるでしょう。より具体的に、シュワブは記者に対して、次のように答えています。

 

記者:リセット後の資本主義はどうなりますか。

 

シュワブ:資本主義という表現はもはや適切ではない。金融緩和でマネーがあふれ、資本の意味は薄れた。いまや成功を導くのはイノベーションを起こす起業家精神や才能で、むしろ『才能主義(Talentism)』と呼びたい。

 

コロナ危機のなか、多くの国で医療体制の不備が露呈した。経済発展ばかりを重視するのではなく、医療や教育といった社会サービスを充実させなければならない。自由市場を基盤にしつつも、社会サービスを充実させた『社会的市場経済(Social market economy)』が必要になる。政府にもESG(環境・社会・企業統治)の重視が求められる。

 

ここでシュワブの言っている「資本主義という表現はもはや適切ではない」という言葉について、少し補足しておきましょう。「資本主義」というのは「資本は無限に増殖する」ということを信じて奉るという一種の信仰です。シュワブは、資本がもはや過剰になり増殖できなくなった以上、この信仰はもはや維持できなくなった、と言っているのです。

 

山口周

ライプニッツ 代表

 

 

 

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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