戦後世代が経験した高成長は人類史でも「例外的」
さらに時間軸・空間軸を拡大して確認してみましょう。図表を見てください。
これは古代から2100年までの全世界におけるGDP成長率の推移を表しています。グラフを確認すればすぐわかる通り、古代以来、2000年にわたってずっと上昇を続けてきたGDP成長率は1950年から1990年にかけてピークを記録した後、現在は下降局面に突入しています。人類の歴史上、初めて経済成長率が上昇から下降へと反転する、まさにその瞬間を私たちは生きているのです。これはつまり、私たちが生きている21世紀の初頭という時代が、実に人類史的な変曲点であることを示しています。この重要性はいくら強調しても足りません。
私たちは、かつて私たちの親世代が経験したような高成長を、あたかも「正常な状態」のように考えてしまう傾向があります。しかし、このグラフが明らかに示しているのは、そのような状況が、実は全人類史においてきわめて特異な例外的事態だった、ということです。
フランスの経済学者、トマ・ピケティは世界的なベストセラーとなった著書『21世紀の資本』において、私たちが一般に有する「成長」のイメージは「幻想に過ぎない」と一蹴しています。
《重要な点は、世界の技術的な最前線にいる国で、一人当たり算出成長率が長期に渡り年率1.5パーセントを上回った国の歴史的事例はひとつもない、ということだ。過去数十年を見ると、最富裕国の成長率はもっと低くなっている。1990年から2012年にかけて、一人当たり産出は西欧では1.6パーセント、北米では1.4パーセント、日本では0.7パーセントの成長率だった。
このさき議論を進めるにあたり、この現実をぜひとも念頭においてほしい。多くの人は、成長というのは最低でも年3~4パーセントであるべきだと思っているからだ。すでに述べた通り、歴史的にも論理的にも、これは幻想に過ぎない。》
トマ・ピケティ『21世紀の資本』
ピケティ自身は同著において、今後のGDP成長率予測については「よくわからない」と断った上で「過去2世紀の歴史を見るかぎり、その数値が1.5%以上となる可能性はかなり低い」と指摘しています。さらに加えて指摘すれば、経済学者や民間エコノミストが行う長期の経済予測には全般に強い上方バイアスがかかっており、実測値は予測値に対して下側に落ちつくケースがほとんどであるという点には留意しておいても良いと思います。
これらの数値を確認するにつけ、つくづく感じるのが「成長というのは一種の宗教なのだな」ということです。
山口周
ライプニッツ 代表
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