「日本は労働生産性が低い=負け組」ではないこれだけの事実

経済は無限に成長していくものであると思われがちです。しかし環境問題などが取りざたされている今、それはありえないことがわかるでしょう。また日本の「労働生産率」は先進国のなかで低く、「負け組」であるかのように語られることがありますがこれも誤りです。先進国全体が下落トレンドにあるのです。「成長」が妄信されている現状を、筆者の危機意識とともに見ていきましょう。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

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「無限の経済成長」という認識は信仰と同じである

私は2017年に上梓した『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』において、ビジネスにおける意思決定があまりにもサイエンスに傾斜するようになっていることで、かえってビジネスが矮小・脆弱になっており、人間性に根ざした感性や直感をビジネスに回復させることの重要性を指摘しましたが、こと経済・社会に関する認識については、この傾向が明らかに逆転していると感じています。理由はシンプルで、「無限の成長」という考えは「非科学的なファンタジー」でしかないからです。

 

たとえばピケティが指摘する通り、世界経済の成長率がこの先2%の「低調なペース」で推移したとしても、世界経済の規模は100年後には現在の7倍に、300年後には370倍に、1000年後には3億9000万倍になっていなければなりません。

 

仮にこの成長率を、多くの人が望ましい水準と考えている4%まで引き上げれば、その数値はそれぞれ、100年後には現在の49倍に、300年後には約12万9000倍に、1000年後にはおよそ10京3826兆倍となり、もはや意味がわかりません。すでに現時点で地球の資源・環境・自然といった問題が大きな課題となっている現在の状況を考えれば、2%の成長すらありえないことだということがよくわかるでしょう。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

科学的にあり得ないことを信じることを「信仰」と言います。つまり「成長・成長」とひたすらに叫ぶ人たちというのは、これを一種の宗教として信じている、ということです。アメリカの社会心理学者、レオン・フェスティンガーは、認知的不協和理論を提唱し、数々の例証から「自分の信念と事実が食い違うとき、人は『信念を改める』よりも『事実の解釈を変える』ことで信念を守ろうとする」と指摘しました。

 

この現象が特にわかりやすく発現するのが信仰の現場です。フェスティンガーはカルト教団の内部に潜り込み、「UFOがやってくる」「大洪水が地球を襲う」といった教祖の予言が外れるという事実を眼前にしても、依然として帰依を解こうとしない信者を観察したことがきっかけとなってこの理論の着想を得ています。

 

そして今日、「度重なる素晴らしいイノベーションをもってしても、経済成長率の鈍化傾向は反転していない」という事実を眼前にしても、依然として「非物質的無形資産を計量していない」「いずれ限界が来るかもしれないが、それはいまではない」「イノベーションによって成長の限界は打破できる」「アフリカの経済成長がやがて世界経済を牽引する」「SNSなどの無料サービスの価値がGDPに計量されていない」というヒステリックに繰り返される反論を聞けば聞くほどに、このフェスティンガーの「人は信念を否定する事実を目にしたとき、信念を改めるのではなく、事実の解釈を変えようとする」という指摘を思い出さずにはいられません。

 

ライプニッツ 代表 独立研究者
著作家
パブリックスピーカー

1970年東京都生まれ。神奈川県葉山町に在住。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。

電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。

(的野 弘路=撮影)

著者紹介

連載日本人はコロナ後の世界をどう生きるべきか

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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