「実家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

母親が亡くなったときは、ホッとしたという本音

それは母親が突然怒りだし「ほんとうはあんたと暮らしたくなかった!」と叫んだからだ。長い間お世話しているのは娘だというのに。

 

これが母親の本心だったのだろうか。うちの母も心ではそう思っているかもしれないが、探らないことにしている。

 

しかし、現実は、息子は結婚するとマスオさん状態になり、母親のことより自分の家族の方が大事になる。これまでの時代は、嫁が義理の母の世話をするものだったが、昨今は、同居する息子も少ないので、嫁はやらなくてすんでいる。それに今は、嫁という意識すらないように思われる。

 

欲しいのは義理の母親の遺産だけ。介護もせずに権利を主張する時代だ。そして、無償で母親の介護をするのが独身の娘ということになる。

 

「独身なんだから時間あるでしょ。わたしは子供のことで忙しいのよ」よく嫁がおっしゃる言葉だ。そんなとき息子が「君も少し手伝ってあげてよ」とは怖くて言えないようだ。

 

結局、独身の娘が母親を最後まで看ることになる。残念ながら、母親が愛する息子に介護されることはまれだ。それが現実である。

 

NPO法人SSSネットワークを20年やっているが、息子と嫁が介護した話はほとんど聞かない。

 

母親を見送った独身の女性は言う。

 

「10年ぐらい、母の介護をしてましたね。最後はガンで先生からあと半年と言われたので、ホームホスピスに入れたのですが、そこで2年も生きちゃって…お金がもつか、とても不安でした」

 

だから、亡くなったときは、ホッとしたという。これは本音だろう。

 

息子は「お母さん、大丈夫」とやさしい声をかけるが、料理も掃除もできない息子に、介護人はできない。せめて、自分ができない分をお金で補ってくれればいいが、嫁から怒られるみたいだ。そして独身の娘が、母親の介護要員として活躍することになる。これが日本の在宅介護の現実だ。

 

母親という存在は、いったい何なのだろうか。母親も自立するべきではないのか。

 

老老介護で大変な人の話を聞くたびに、考えさせられる。

 

 

 

 

松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事

 

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母の老い方観察記録

母の老い方観察記録

松原 惇子

海竜社

『女が家を買うとき』(文藝春秋)で世に出た著者が、「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。 おしゃれ大好き、お出かけ大好…

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