現物買いと空売りを同時に行い、株価の値下がりリスクを抑えながら株主優待を獲得する「優待クロス」。しかしうまい話だけではありません。今回は「優待クロス」の具体的なやり方と、忘れがちな注意点を見ていきます。※本連載では、AI技術を用いた株価予測ソフトを開発する、株式会社ソーシャルインベストメントでトレーダーとして活躍する川合一啓氏が、個人投資家が株式市場で勝ち続けていくための極意について説明していきます。

「優待クロス」のやり方と仕組み

株の取引方法は2種類に大別でき、「現物取引」と「信用取引」があります。現物取引は文字通り、証券会社に入金されている範囲内のお金で株を買い、証券会社に保管されている自分の株を売る、現物による取引です。一方の信用取引は、担保を差し入れ、お金を借りたり株を借りたりして行う取引です。

 

そして優待クロスでは、「現物買い」と「空売り(信用売り)」を組み合わせます。空売りとは信用取引の一種で、借りた株を売ることです。期限までにその株を返済する義務を負います

 

優待クロスでは、その日に株主であれば株主優待が得られる「権利付き最終日」までに、その銘柄を現物買いし、一方で同銘柄を同数・同価格で空売りします。そして、翌営業日の「権利落ち日」になれば株主優待を得られますので、そこで株を持っている必要もなくなります。現物買いした分の株を、空売りした分の株の返済に充てます。これで優待クロスが完了します。

 

現物買いした株がもし購入時より値下がりしても、購入した価格で空売りもしてあり現金を確保していますので、それは相殺されます。一方、現物買いした株がもし購入時より値上がりした場合、その価格となった空売りした分の株を返済しなければなりません。しかし、現物買いした株をそのまま返済に充てられますので、これも相殺されます。

 

これが優待クロスのやり方であり、株価の値下がりリスクを抑えられる仕組みとなります。

 

優待をゲット!(※画像はイメージです/PIXTA)
優待をゲット!(※画像はイメージです/PIXTA)

優待クロスをする際の注意点

このように「よく考えたなあ」と感心できる優待クロスという手法ですが、実は完全に無料で株主優待を手に入れられるわけではありません。

 

まず、現物買いの場合も空売りの場合も、売買手数料がかかります。そして、空売りでは売買手数料も含めて以下のような費用がかかります。

 

● 売買手数料:現物取引と同様に必要な費用

 

● 貸株料:証券会社から株を借りるための費用

 

● 逆日歩(ぎゃくひぶ):活発な空売りにより証券会社が保有する株が不足した時に、その空売りをした投資家が支払う「足りなくなった株の調達費用」(なお、信用取引には「制度信用取引」と「一般信用取引」があり、後者では逆日歩は発生しない)

 

● 管理費:空売り約定日から1か月経過の都度、空売り建玉ごとに対して発生する費用

 

これらは、証券会社、証券会社の定めるプラン、取引内容、により金額が異なります。また、無料の場合もあります。しかし、想定しておくべき費用です。

 

また、逆日歩不要な一般信用取引の場合は、株の在庫が少なく、権利付き最終日に近づくほど空売りができなくなる場合があります。ですから、早めに優待クロスを始めなければならない場合もある、という点にも注意が必要です。

 

さらに、人気の株主優待を持つ銘柄の場合は、少ない在庫の一般信用株を大勢の人が欲しがるため、「抽選日」を設けていてそれに参加して空売りをする必要が出てくる場合もあります。

 

このように、ある程度の費用や手間をかけなければいけないのもまた優待クロスという手法であり、そこにも注意をするべきなのです。

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