ひとりで暮らす生き方は偏った生き方?
親孝行ってなに?
「でも、うちの親子は、普通とは違うから」とわたしが否定すると、既婚の友達は言った。
「あなたが羨ましいわ。わたしも母の面倒を見たかったけど、できなかった。最後を母と過ごせなかったことが、わたしの一番悔やまれることなのよ。だから、それができるあなたが羨ましい。死んでしまったらできないのよ。親孝行が」
親孝行か。久々に聞く言葉だ。
老いた母と同居することが本当に親孝行なのだろうか。母と住んだのは子供のころだけなので、わたしは母の気持ちを察することはできない。親孝行の三文字が宙をぐるぐる回った。
既婚者に聞けば、同居は親孝行と言うし、シングルの人に聞けば、やめた方がいいと言う。悩むわたしを見かねて、親友がわたしを風水の先生のところに連れて行った。
その先生は、はっきりと引っ越さない方がいいと答えた。なんでも、落ち目になったある女優のお抱えの先生のようで、自分のアドバイスで彼女の運気が上がったことを強調した。しかし、その後、彼女は大波乱の人生を送っている。
そのときのわたしは、本当にどうしたらいいかわからなくなっていたので、仏教講座を受けていたお坊さんに相談すると、彼は満面の笑顔で答えた。
「実家にお母さんと一緒。それはいい機会ですね。自然の流れですよ。よかった。よかった。ひとりで暮らす生き方は偏った生き方です。しっかりと、お母さんの生き方を見せてもらいなさい。そして、人間として成長するのです。それが生きるということですよ」
偏った生き方? 人間としての成長?
未熟な自分を見透かされていたのか。そして、わたしはますます迷路を彷徨うことになったが、数日後、決断した。お坊さんがおっしゃった「自然の流れに逆らわずに…」の言葉が、胸に刺さったからだ。
今までは何もかも、自分ひとりで決めてきたが、流れにそうのも必要なことかもしれないと思えたからだ。どうなるかわからないが、流れに乗ってみよう。命をとられるわけではないのだから。