「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

ひとりで暮らす生き方は偏った生き方?

親孝行ってなに?

 

「でも、うちの親子は、普通とは違うから」とわたしが否定すると、既婚の友達は言った。

 

「あなたが羨ましいわ。わたしも母の面倒を見たかったけど、できなかった。最後を母と過ごせなかったことが、わたしの一番悔やまれることなのよ。だから、それができるあなたが羨ましい。死んでしまったらできないのよ。親孝行が」

 

親孝行か。久々に聞く言葉だ。

 

老いた母と同居することが本当に親孝行なのだろうか。母と住んだのは子供のころだけなので、わたしは母の気持ちを察することはできない。親孝行の三文字が宙をぐるぐる回った。

 

既婚者に聞けば、同居は親孝行と言うし、シングルの人に聞けば、やめた方がいいと言う。悩むわたしを見かねて、親友がわたしを風水の先生のところに連れて行った。

 

その先生は、はっきりと引っ越さない方がいいと答えた。なんでも、落ち目になったある女優のお抱えの先生のようで、自分のアドバイスで彼女の運気が上がったことを強調した。しかし、その後、彼女は大波乱の人生を送っている。

 

そのときのわたしは、本当にどうしたらいいかわからなくなっていたので、仏教講座を受けていたお坊さんに相談すると、彼は満面の笑顔で答えた。

 

「実家にお母さんと一緒。それはいい機会ですね。自然の流れですよ。よかった。よかった。ひとりで暮らす生き方は偏った生き方です。しっかりと、お母さんの生き方を見せてもらいなさい。そして、人間として成長するのです。それが生きるということですよ」

 

偏った生き方? 人間としての成長?

 

未熟な自分を見透かされていたのか。そして、わたしはますます迷路を彷徨うことになったが、数日後、決断した。お坊さんがおっしゃった「自然の流れに逆らわずに…」の言葉が、胸に刺さったからだ。

 

今までは何もかも、自分ひとりで決めてきたが、流れにそうのも必要なことかもしれないと思えたからだ。どうなるかわからないが、流れに乗ってみよう。命をとられるわけではないのだから。

 

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母の老い方観察記録

母の老い方観察記録

松原 惇子

海竜社

『女が家を買うとき』(文藝春秋)で世に出た著者が、「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。 おしゃれ大好き、お出かけ大好…

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