子どものいない夫婦にとっても、「争続」は無縁のものではありません。本記事では、岡野雄志税理士事務所所長の岡野雄志氏が、子どものいない夫婦に起こりえる相続トラブルについて解説します。※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

夫が急死…悲しんでいる最中、突然現れた謎の男

DINKs(ディンクス)という言葉をご存じでしょうか。バブル経済時代を経験された世代なら、「あの頃、確かにトレンドだったな」と、思い出されるかもしれません。DINKsは、D=Double、I=Income、N=No、K=Kidsを表し、夫婦共働きで子どものいない世帯を指します。

 

かつては、「女性は結婚したら家庭を守り、子どもを産み育てるもの」というのが主流を成す社会通念でした。しかし、昭和61(1986)年に男女雇用機会均等法が施行され、バブルによる労働力不足からも、女性の社会進出が進みました。それにともなって流行した言葉です。

 

今また、収入だけでなく、財布も別々の夫婦という意味の新DINKsなる言葉も生まれて、再び注目を集めているようです。DINKsは本来、意図的に子どもを持たない夫婦を指しますが、すべての夫婦がそういうわけではありません。

 

Kさん夫妻もお子さんを望んでいましたが、残念ながら、ついに恵まれませんでした。

 

ご主人は、亡くなった父親が放蕩三昧(ほうとうざんまい)を繰り返し、母親も早くに他界、兄弟姉妹もなかったため、温かい家庭に憧れていたそうです。お子さんにこそ恵まれませんでしたが、夫婦で力を合わせて家計を成し、念願のマイホームを持ち、老後の資金も蓄えることができました。

 

夫婦仲は良好でしたから、Kさんの望み通り、温もりのある「おふたりさま家庭」を築くことができたのです。奥様も、今思えば舅姑・小舅小姑問題の苦労もなくてよかったと笑い、このまま老後も仲良く一緒に余生を過ごそうと、ご夫婦で話し合っていました。

 

ところが、定年を迎え、さあ、これから夫婦で趣味でも楽しもうというときに、ご主人が急逝されてしまったのです。「天涯孤独」が口癖のご主人でしたから、奥様は悲しみに暮れながらも、ほかに法定相続人もいないので、「争族」の心配もないだろうと安心していました。

 

そこに突然現れたのが、それまでは予想もしなかった、ご主人の義弟を名乗る男でした。

 

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