不動産の名義変更を怠ると、その後の権利関係が面倒に
●登記によって第三者への権利主張が可能に
遺言や遺産分割協議によって特定の不動産を相続した人は、遺言書や遺産分割協議書の写しを添えて、法務局で名義変更(相続登記)の手続きを行います。
不動産は、登記を行うことによって初めて第三者に対しても自分の権利を主張できるようになるからで、自分の権利を守るために欠かせない手続きです。
また、相続登記をしないまま放置すると、さらに相続人が死亡して次の相続が開始したり、古い戸籍が廃棄処分されたりなどして、権利関係が複雑になり、必要書類が手に入らなくなるなどの不都合が生じることにもなりかねません。
●融資を受けアパートを建てている場合は要注意
相続税対策のために銀行からの融資でアパートなどを建て、土地に根抵当権が設定されている場合は注意が必要です。
根抵当権の債務者が死亡した場合、その死亡から6カ月以内に後継債務者(指定債務者)を定める合意の登記をしないときは、根抵当権の元本は相続開始のとき(債務者の死亡時)において確定したものとみなされます。
結果的に、新たな融資を受けることができなくなるなど、銀行との取引上の大きなマイナスとなりかねません。
●2022年3月まで一定の場合、相続登記の登録免許税がゼロ
相続による不動産の登記(相続登記)にあたっては、相続登記する物件の固定資産税評価額の0.4%に相当する額を登録免許税として支払います。
なお、相続による土地の所有権移転登記については、登録免許税の免税措置が設けられています。
【相続登記における登録免許税の減免措置】
①相続により土地を取得した個人が登記をしないで死亡した場合の登録免許税の免税措置
相続により土地の所有権を取得(一次相続)した個人が、その相続(一次相続)によるその土地の所有権の移転登記を受ける前に死亡した場合(一次相続の登記未了のまま死亡)、2018年(平成30年)4月1日から2022年(令和4年)3月31日までの間に、その死亡した個人をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記(一次相続に関する相続登記)については、登録免許税が課されない。
②少額の土地を相続により取得した場合の登録免許税の免税措置
個人が2022年(令和4年)3月31日までの間に、土地について相続による所有権の移転登記を受ける場合において、その土地が相続登記の促進を図る必要がある一定の土地であり、かつ、その土地の登録免許税の課税標準となる不動産の価額が10万円以下であるときは、その土地の相続による所有権の移転登記については、登録免許税を課さない。
全国で増加中の「所有者不明の土地」をどうする?
●所有者の分からない土地が全国的に増加
これまで、相続した不動産の登記は任意とされていました。しかし、相続した不動産のうち、土地については相続登記が義務化される見通しです。
その背景には、相続登記がされておらず、所有者が分からなくなる土地が全国的に増えていることがあります。
国土交通省が2016年度(平成28年度)に、約62万筆(558市区町村1130地区)の土地について所有者を調べたところ、登記簿から所有者が判明しなかった土地の割合は20.1%にのぼりました。そのうち3分の2は相続登記が行われていないもので、残りの3分の1は所有者の住所変更の未登記などによるものだったそうです。
また、法務省が2017年(平成29年)に全国10カ所の地区で約10万筆の土地を対象に、最後の登記からの経過年数を調査しました。その結果、大都市以外の地域では4分の1を超える土地が最後の登記から50年以上経過していることが分かったそうです。
所有者が分からない土地はほとんど、現地に管理者もいません。そのため、景観の悪化、近隣への損害、治安の悪化などさまざまな問題を引き起こしかねません。
また、公共工事などのため、地方自治体が所有者を探すにしても、最後の相続登記から時間が経つにつれて相続人は増えており、相続人の調査と連絡のため多額のコストがかかります。特に大規模災害の被災地では、所有者不明の土地が復興事業の妨げになっているケースもあるようです。
また、公共工事などのため、地方自治体が所有者を探すにしても、最後の相続登記から時間が経つにつれて相続人は増えており、相続人の調査と連絡のため多額のコストがかかります。特に大規模災害の被災地では、所有者不明の土地が復興事業の妨げになっているケースもあるようです。
●登記しないと一定の過料も
そこで、所有者不明の土地がこれ以上、増えないようにするため、相続登記が義務化される予定です。
現在、相続登記の義務化に必要な法律の改正案が法制審議会で検討中であり、今後、国会で新しい不動産登記法などが成立したあと、運用が始まる見込みです。
なお、義務化されたあとは、正当な理由がなくて登記しないと一定額の過料を科すという案が検討されているようです。
また、やむを得ない理由で登記期限に間に合わないケースについて、登記所への報告的な申請として「相続人申告登記」(仮称)の新設も検討されているようです。
税理士法人チェスター
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