遺産相続において、現金は不動産等とは異なる「分割しやすい財産」と考えられていますが、それぞれ「現金」「預貯金」「金銭債権」の区分によって扱いが異なります。例えば預貯金の場合、遺産相続前に相続人が単独で引き出せる金額には一定の基準があるなど、注意が必要です。相続専門税理士が解説します。

タンス預金などの現金は、いったん相続人の共有となる

銀行預金は遺産分割の対象となり、各相続人が単独で引き出せる額には制限があります。

 

●「可分債権」は本来、遺産分割の対象外

 

相続人どうしによる「遺産分割協議」で注意すべきなのは、相続財産のうちの「可分債権」の扱いです。可分債権とは、文字どおり分けることのできる債権のことで、代表的なのが他人に貸したお金(金銭債権)です。

 

最高裁判所判例では、金銭債権などの可分債権は、相続開始によって各相続人に、その法定相続分に応じて承継されます。つまり、金銭債権(金融機関に対するものを除く)は遺産分割の対象にはならないのです。

 

なお、タンス預金などの“現金”は債権ではなく、モノです。現金は物理的には簡単に分けることができますが、債権ではないのでいったん相続人の共有となり、その後、遺産分割協議を経なければ分けることはできないので注意が必要です。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

●銀行預金は可分債権だが例外的な扱い

 

可分債権に関連して、さらに注意すべきポイントがあります。それは、銀行預金の扱いです。

 

銀行預金は金融機関に対する金銭債権(預金払戻請求権)であり、上記の理屈では相続の発生とともに、各相続人に法定相続分に応じて帰属するように思われます。

 

もし、そうだとすれば、相続人はそれぞれ自分の法定相続分だけ、金融機関に対して預金の払い戻しを請求できることになります。

 

実際、以前はそのように解されていました。金融機関が事務手続き上、二重払いなどのリスクを避けるため、遺産分割協議書の提出を求めることはありましたが、窓口では柔軟な対応もされていました。

 

しかし、2016年(平成28年)の最高裁判所判決によって、金融機関に対する金銭債権(預金払戻請求権)については例外的に、「遺産分割の対象である」ということになりました。つまり、相続人は遺産分割協議で合意しなければ、被相続人の預金の払い戻しができなくなったのです。

 

これが現場での混乱を招いたことなどもあり、その後、民法改正によって2019年(令和元年)7月からは、遺産分割協議の前であっても、相続人はそれぞれ預金払戻請求権のうち相続開始のときの債権額の3分の1に自分の法定相続分を掛けた額(最高150万円)については、単独で払い戻しが請求できることになりました。

 

【相続における現金、預貯金、金銭債権の扱い】

 

★現金

モノであり、いったん相続人の共有となり、遺産分割協議によって分ける。


★預貯金 

金銭債権ではあるが、遺産分割協議の対象。※ ただし、預金口座ごとの残高の3分の1×法定相続分(同一金融機関で最高150 万円)までは、各相続人が単独で払い戻し請求できる

 

★金銭債権(株式・投資信託など)

相続の発生と同時に、各相続人が法定相続分で承継する。

 

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