認知症になったら、お金は自由に使えない!
親に多額の資産があれば、高額の医療費も介護費用も賄えるかというと、そうとも限りません。認知症、あるいは事故や病気で認知機能が失われた場合、さまざまな制限がかかってしまうからです。
認知症といってもアルツハイマー型認知症だけではありません。脳血管性認知症、頭部外傷後遺症、前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症など、認知機能が失われた状態に至るには、いろいろな経緯があるのです。
まず、認知症になって、後述する成年後見制度の後見人や保佐人がついた場合には、会社役員、公務員のほか、弁護士、税理士、司法書士、社会保険労務士等のいわゆる「仕業」には就けません。それぞれ欠格事由があるからです。
さらに、法律行為全般(おもに契約行為)ができなくなります。具体的にどんなことができなくなるのか、ざっと挙げてみましょう。
●預貯金からの出金※
●契約書などへの署名押印(署名押印したとしても無効になる)
●不動産の売却、処分
●賃貸物件の新たな契約
●相続手続き(相続放棄や相続の承認を含む遺産分割協議)への参加
●財産などを贈与すること、贈与を受けること
●遺言を書くこと(書いたとしても無効になる)
これらのことを、本人ができなくなったのなら代わりに子どもが、と思うかもしれませんが、それは叶いません。たとえ「介護費用にあてたい」という理由であっても、本人の預貯金の引き出しや生命保険の解約、自宅不動産の売却などを、親族が代わって行うことはできません。
つまり、親がいくらお金を持っていても、判断する能力がなくなってしまったら、本人も子どもも自由に使うことができないのです。しかし、だからといって、「何もできない」親を放っておくわけにはいきません。
じゃあ、どうするか?
子どもは、自分の預貯金を崩して親の医療費や介護費用にあてるしかありません。有料老人ホームに入居できるほどの資金がないからと、自宅で介護することになれば、子どもは仕事を辞めなければならないかもしれない。そうなるとますますお金がなくなり、困窮してしまう…。
このように判断能力がなくなってしまった親の財産を使えるようにするには、「成年後見制度」を利用するしかありません。
財産を守ることが主な目的のため、お金の使い方にさまざまな制約があり、本人の財産は守れたとしても、本人が元気な時に思い描いていた生活はなかなか望めないのが現状です。また、お金の使途についての制約によって、子どもたちが精神的なダメージを少なからず受けることもあるでしょう。つまり、誰も幸せになれない…。
いまは、まさか自分がそんな状況に陥るとは想像もつかないかもしれません。が、現実には「いつそうなっても、不思議はない」状況にあります。
親のため、そして自分のためにも、親が元気なうちに、いえ、いますぐにでも親子でお金の話をしてほしいのです。
安田 まゆみ
元気が出るお金の相談所 所長
※編集部注 2021年2月17日、全国銀行協会は、認知症の人の預金を代理人ではない親族などが引き出すことを例外的に認めるとした指針をまとめました。
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