近年、認知症になる高齢者の数が増えており、事前に相続対策をする必要性が高まっています。その解決方法の一つが「家族信託」で、この制度を活用することで柔軟な財産管理が可能になります。今回は、家族信託を使って自宅を円滑に売却する2つの事例を紹介します。※本連載は、宮田浩志氏の著書『相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本』(近代セールス社)より一部を抜粋・再編集したものです。

老人ホームに入所したあと、空き家の自宅を売却したい

Q. 森父郎(80歳)は、一人娘の桜子と離れて一人暮らしをしていましたが、火の不始末や食生活の管理など独居生活への不安を解消すべく、先日老人ホームに入所しました。

空き家になった自宅は、桜子も住まないので、桜子は毎月の施設利用料を確保するためにも、1~2年を目安に売却したいと考えています(すぐの売却は家財の整理・処分や父郎の心情面への配慮から難しいと考えている)。

父郎は最近、物忘れがひどくなってきたので、売却する頃になって、判断能力が低下し売却に支障が出ることを危惧しています。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

<解決策>

森父郎は、娘桜子との間で委託者兼受益者を父郎、受託者を桜子として、自宅不動産を信託財産とする信託契約を締結します。また、信託契約において、信託監督人として司法書士Mを指名し、受託者たる桜子には信託監督人の同意を得たうえで、自宅不動産を売却できる権限を与えておきます。

 

【信託設計】
委託者:森父郎
受託者:森桜子
受益者:森父郎
信託監督人:司法書士M
信託財産:自宅不動産
信託期間:父郎が死亡するまで
残余財産の帰属先:桜子(父郎の存命中に契約終了した場合は父郎)

 

<要点解説>

受託者である桜子には、自宅不動産の管理処分権限を付与しますが、悪質な業者に騙されることなく、適切な時期に適正な価格で売却できるように、信託監督人である司法書士Mの同意を得なければ処分できないようにしておきます。こうすることで、父郎にとっても桜子にとっても、法律の専門家が常に関わるので安心できます。

 

桜子は、売却価格とそのタイミングを信託監督人である司法書士Mと相談しながら決定し、司法書士Mは、売却の時期や売却価格について精査した結果、問題がなければ同意します(売却の時点で父郎が元気なら父郎の意向を最大限尊重する)。

 

桜子は、受託者として登記簿上の形式的な所有者になるので、桜子が売主として売却し、その売買代金から諸費用(不動産仲介手数料、信託監督人報酬など)の精算をするところまでも担います。売却後の信託契約の存続は、実務上次の2パターンに分かれます。

 

一つは、父郎が亡くなるまで現金化された信託金融資産を桜子が後見人の代役として管理を継続するパターンです。受託者である桜子が大きなお金を信託専用口座で管理するため、父郎の老後のサポートとしては安心です。

 

もう一つは、不動産売却という主目的が達成されたので、信託を終了させるパターンです。受託者である桜子は、年金受取りや施設利用料等の引落口座として設定している父郎の銀行口座に売却代金の残りを返金することで、受託者が預かる財産がなくなるため、「信託財産の消滅」という信託の終了事由で信託契約を終了させることもできます。

 

つまり、自宅不動産のスムーズな売却のために家族信託を設定し、売却後の精算事務完了をもって信託が終了するような、不動産売却のための一時的な信託契約という活用法です。

 

父郎の老後の不測の事態に対応できるように万全のサポート体制を築くのであれば、父郎の死亡まで信託を継続する前者のパターンが好ましいでしょう。

 

なお、もし不動産売却前に父郎が急死した場合でも、あらかじめ信託契約書において清算受託者が売却できる旨を規定しておけば、信託契約終了に伴い登記簿上の名義を「所有者森桜子」にしなくても、受託者名義のまま売却することができますので、非常に合理的な処理が可能となります。

 

清算受託者は、原則として信託事務の清算(プラスの資産の取りまとめおよび負債の支払いなど)が主たる業務になりますが、この清算業務の一環として信託不動産を売却する権限を付与することができることを知っておくと便利です。

 

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相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本

相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本

宮田 浩志

近代セールス社

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