(※写真はイメージです/PIXTA)

相続で揉めないためには、事前の対策が必要です。そこで、「信託」を活用すると、柔軟な財産管理が可能になります。今回は、子どもがいないケースで、妻亡き後に自分の血族だけに財産を遺す方法を見ていきます。※本連載は、宮田浩志氏の著書『相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本』(近代セールス社)より一部を抜粋・再編集したものです。

先祖代々守り抜いた土地を、妻の血族に渡したくない

Q. 近藤太郎(75歳)は、地主として先祖代々守りぬいてきた広大な土地とその敷地内の建物(アパート・マンション等)を所有しており、その不動産収入(地代・家賃)で暮らしています。妻花子との間に子供はいないので、太郎の法定相続人は花子と弟健二郎になります。

太郎は、自分が亡くなったら花子には苦労をかけたくないので、遺産は多く譲りたいと考えています。しかし、次に花子が亡くなると、先祖代々太郎家が守り抜いてきた不動産が花子側の親族の手に渡ってしまうことを憂いています。

太郎は花子が亡くなったら、不動産はすべて太郎家の血族である弟健二郎の家族に遺すことを希望しています。

 

<解決策>

近藤太郎は、弟健二郎の子健太との間で信託契約公正証書を作成します。その内容は、受託者を健太(太郎の甥)にして財産を託し、当初受益者を太郎、太郎亡き後は第二受益者を妻花子にして、遺された花子の老後は、健太が生活費等の財産給付を担うなどして支えていきます。

 

健太がきちんと花子のサポートをしているかどうかは、信託監督人の司法書士Mが見届けることにします。そして、太郎と花子が亡くなったら信託が終了するように定め、信託の残余財産の帰属先を健太に指定します。

 

【信託設計】
委託者:近藤太郎
受託者:近藤健太(太郎の甥)
受益者:①近藤太郎②近藤花子
信託監督人:司法書士M
信託財産:太郎所有の不動産および現金
信託期間:太郎および花子が死亡するまで
残余財産の帰属先指定:健太

「家族信託」を使うと、柔軟な財産承継が可能

通常の相続では、妻花子が相続した財産を最終的に甥の健太に承継させるには、花子にその旨の遺言書を書いてもらう必要があります(子のいない花子の法定相続人は、花子の両親または兄弟・甥姪となるので)。

 

しかし、それは花子の意思次第なので、花子の気持ちが変われば、太郎の知らない間や太郎の死後に遺言書を書き直されるリスクがあります。つまり、弟健二郎の家族が資産を承継できる保証はないというのが、通常の民法における相続です。

 

しかしこの場合、家族信託の仕組みを使うことで、理論上は太郎以外の利害関係人(妻花子など)の承諾や協力を得なくても、最終的に太郎家の不動産を、弟健二郎の家族に承継させたいという、太郎の希望を反映させた財産承継を実現できるのです。

 

甥健太による太郎および花子の財産管理については、直接的ではありませんが、将来的には甥健太と太郎・花子は潜在的な利益相反的な関係になります。つまり、太郎および花子が財産をあまり費消せずに亡くなれば、結果として健太に遺産がより多く入ってくることになるからです。

 

そのため、司法書士Mが財産管理と太郎や花子への財産給付が適正になされているかを監督・指導するという、重要な役割を担います。

 

なお、信託終了時の残余財産の帰属先ですが、「太郎→花子」の順番に亡くなって、花子の死亡で信託契約が終了した場合は、花子からその法定相続人でない弟家系に遺産が行くことを意味します。一方、花子が太郎よりも先に亡くなっていたことにより、太郎の死亡で信託契約が終了した場合は、健二郎が太郎の法定相続人になります。

 

しかし、いずれの終了の仕方をしても、相続税の課税上「2割加算」されることなりますので、少しでも税金の負担を抑えるために、健二郎が存命していても、あえて健二郎の代を飛び越え、甥である健太に直接遺産が行くように設計しました。

 

※被相続人の一親等の血族および配偶者以外の人(たとえば兄弟や甥姪など)が相続・遺贈で財産を取得する場合には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算される(相続税法18条)。

 

宮田浩志

宮田総合法務事務所代表

 

※本記事の事例に登場する名前はすべて仮名で、個人が特定されないよう内容に一部変更を加えております。

 

 

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相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本

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宮田 浩志

近代セールス社

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