近年、認知症になる高齢者の数が増えており、事前に相続対策をする必要性が高まっています。その解決方法の一つが「家族信託」で、この制度を活用することで柔軟な財産管理が可能になります。今回は、家族信託を使って自宅を円滑に売却する2つの事例を紹介します。※本連載は、宮田浩志氏の著書『相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本』(近代セールス社)より一部を抜粋・再編集したものです。

死後に自宅を売却し、信頼できる親戚に財産を遺したい

Q. 石田ウメ(80歳)は、独身で一人暮らしをしています。所有する資産は、自宅である都内の戸建(時価1億円弱)ですが、この家を引き継ぐ家族・親族はいません。

自分の亡き後は自宅不動産を売却して、その代金を自分の兄弟である妹桃子や甥信彦・姪信子にあげたいと思っています(ウメと疎遠な弟二郎には財産を遺す必要はないと考えている)。

ウメは、老後と自分が死んだ後のことは、親戚の中でも一番信頼でき、自分を気にかけてくれている甥信彦に頼みたいと思っています。

 

<解決策>

石田ウメは、受託者となる甥信彦と信託契約公正証書を作成します。その内容は、委託者兼受益者をウメ、信託監督人を司法書士M、自宅不動産と預貯金の大半を信託財産とし、信託の期間をウメが亡くなるまでとします。

 

ウメが亡くなると信託契約が終了し、清算受託者となった司法書士Mは、信託の清算を行い、残った残余財産を甥信彦・姪信子・妹桃子(帰属割合は、信彦:信子:桃子=2:1:1)に引き渡します。

 

もし、信託終了時に自宅不動産が残っていた場合は、清算受託者となった司法書士Mが自宅を換価処分できるように、契約書の中に清算受託者の権限を明記しておきます。

 

なお、信彦を受任者とする任意後見契約も信託契約締結時に一緒に締結しておくと、万が一、ウメの入院や施設入所、介護保険関係の手続き等に際して甥という立場だけでは不十分と指摘された場合に、スムーズかつ確実に信彦が後見人に就任できて安心です。

 

さらに、信託契約だけでは網羅しきれない財産があるので、信託契約作成時に合わせて、遺言公正証書(信託の残余財産と同様に信彦・信子・桃子に遺贈する旨)も作成しておきます。

 

こうすることで、相続発生後、遺言執行者となった司法書士Mが信託財産以外の財産をすべて取りまとめ、信託の残余財産と同様に信彦・信子・桃子にスムーズに遺産を渡すことができます。

 

【信託設計】
委託者:石田ウメ
受託者:石田信彦
受益者:石田ウメ
信託監督人:司法書士M
信託財産:自宅および現金
信託期間:ウメが死亡するまで
清算受託者:司法書士M
残余財産の帰属先:信彦、信子、桃子

 

<要点解説>

信託契約により、ウメの老後の財産管理とともに、入院や高齢者施設の入所費用捻出のための自宅売却もタイミングを逃さずできるので、ウメにとっての安心感は大きいと思われます。

 

通常の遺言で不動産を承継させる場合、遺言に基づく相続登記または遺贈の登記をしたうえで、所有者となった者が売りたいときに売るという流れになります。

 

一方、「清算型遺贈」の旨が遺言書にあれば、遺言執行者が不動産の換価処分をして、現金化されたものを相続人または受遺者に引き渡すことになるので、相続人または受遺者の負担はほぼないでしょう。

 

今回は、これと同様の効果を信託契約の中に盛り込んでおり、清算受託者が信託の残余財産たる不動産を換価処分して現金化されたものを取りまとめ、残余財産の帰属権利者である信彦・信子・桃子の3人に引き渡すことになります。なお、弟二郎には遺留分はないため、この信託契約の内容で完結します。

 

宮田浩志

宮田総合法務事務所代表

 

※本記事の事例に登場する名前はすべて仮名で、個人が特定されないよう内容に一部変更を加えております。

 

 

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相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本

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宮田 浩志

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