「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

憧れの町の世田谷は引きこもりシニアが急増

先日、テレビ朝日「スーパーJチャンネル」を見ていたら、世田谷に孤立したシニアが増加している特集をやっていて、目が釘づけになった。

 

世田谷は住みたい町のトップにランクインしている憧れの町。しかし、現在の世田谷は、人との接触もなく、引きこもり状態で暮らしているシニアが急増しているという。

 

60歳からバレエ教室を開いていたが、80歳でやめたという84歳のひとり暮らしの女性は、昨年、家で転倒し骨折。それ以来、まったく外出していないというのだから驚いた。

 

84歳のひとり暮らしの女性は、昨年、家で転倒し骨折。ほとんど動かずに過ごしているという。(※写真はイメージです/PIXTA)
84歳のひとり暮らしの女性は、昨年、家で転倒し骨折。ほとんど動かずに過ごしているという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

居間に飾ってある白鳥の衣装を着けたバレリーナの写真が、昔バレリーナだったことを証明していたが、とても同じ人とは思えない変貌ぶりに、バレエをかじっているわたしは、唖然とした。

 

雑然とした部屋。彼女はテレビの前のソファに座ったまま、ほとんど動かずに過ごしている。

 

「外を歩くのは怖いので、8カ月間、一歩も外に出ていません」

 

買い物は、と聞かれると、生協に頼んでいるから大丈夫らしい。

 

もう一人登場した同じく80代の男性は、4年前に妻を亡くして以来生活が一変したと嘆く。元会社役員か。顔つきと暮らしぶりでいい生活をしてきたことが想像できる。

 

体は元気そうだが、精神的に参っているようで、妻がいたときは、妻がいたときはとそればかりくり返す。「もういないんだよ。前を向いて生きてよ」と陰の声。今は寂しくて、悲しくて、足が悪いわけではないのに、自宅の庭にしか出ていないとおっしゃるのだから驚きだ。

 

妻に家事をやらせていたので、自分でご飯を作ることもできず、家政婦に3食作らせているという。わたしは心の中で、「妻はあんたの家政婦だったのか〜、甘えるんじゃないわよ。ご飯ぐらい自分で作れ〜〜」と叫んでしまった。

 

現役時代に社会的地位があっても、会社を辞めればただの人。そのくらいのことがどうしてわからないのか、不思議だが、そういう男性は日本にはごまんといる気がする。

 

その男性を批判する気はないが、そんなに寂しくて悲しいなら、外に出て、地域の人のために何かボランティアでも始めればいいのにと思う。会社時代の特技を生かすこともできるはずだ。子供はいるらしいが、滅多に会うことはないという。

 

近所の人とは、話題が違いすぎて話す気がしないらしい。

 

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母の老い方観察記録

母の老い方観察記録

松原 惇子

海竜社

『女が家を買うとき』(文藝春秋)で世に出た著者が、「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。 おしゃれ大好き、お出かけ大好…

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