中国経済は新型コロナウイルスの影響から一足早い回復を見せる一方、債券の債務不履行(デフォルト)が急増中だ。金融政策の正常化が検討されてはいるものの、債券の返済圧力は大きく、その判断は難しい。市井の「国有企業信仰」が揺らぎつつある中、中国政府はどんな対策を立てているのか。その実情を探り、今後を展望する。本稿は筆者が個人的にまとめた分析・見解である。

国企の相次ぐデフォルトで「国有企業信仰」揺らぐ

2015年、新エネルギーの保定天威、機械メーカー中国二重、中鋼といった中央国企が相次いでデフォルトし、いわゆる「国企信仰」が揺らいだ。その後デフォルトは私企業が中心(17〜19年金額ベースで80%)だったが、20年は新規デフォルト企業28社のうち国企が8社、19年457億元から1004億元に急増した(中泰証券)。20年は地方国企707億元(20年総額の約半分)、前年までの国企デフォルト累計額を超えたとのデータもある(社会科学院系列の国家金融発展実験室、略称NIFD)。

 

なお、これら数値が地方政府融資平台(LGFV)を含む数値かは明らかでない。11月は石炭地方国企の永城煤電(河南)、自動車メーカー地方国企華晨汽車(遼寧)、清華紫光が相次いでデフォルトを起こし、市場で改めて「国企信仰」の崩壊が話題になった。

 

中国では、川下の製造業では市場開放が進み多くの私企業が競争する一方、国企は資源や基礎インフラを中心に川上に集中していることから、国企デフォルト増加でデフォルトの産業分布も、これまでの製造業中心から分散した。

 

コンピュータ、自動車関連、建築装飾、不動産(後述)等が多い一方、国防関係、鉄鋼、電気設備、非銀行金融関係は少ない。全般的に経営を多角化している企業がデフォルトに陥りやすい傾向にある(2021年1月15日付21世紀経済報道)。15〜20年11月累計で28社、118本、1071億元あった国企デフォルト(LGFVを除く)のうち、その後一部または全額が返済されたのは6%弱の7本、62億元に止まっている(国泰君安証券)。

 

中国当局が大きな政策課題の1つとする国企改革で繰り返し主張していることは、国企を「做強做優做大」、つまりより強く大きく優れたものにしていくことだ。言い換えれば、業績の悪い中小国企を淘汰する過程で、金融市場にシステミックリスクが発生する恐れがない限り、デフォルトが容認されていく可能性がある。21年国企債の償還額(下記城投債を含む)は7.37兆元、償還額全体の8割以上を占めると予測されている(21年1月29日付「界面」)。

話題になりつつある、城投債の「剛性兌付崩壊」

地方政府にとっては、インフラ投資を担い成長を牽引するLGFVは国企より重要で、地方政府への依存が大きいLGFVがデフォルトすると、その地方政府や省全体の信用に与える影響は、国企がデフォルトした場合より大きい。このため、コロナの影響で財政難に陥った地方政府は、国企よりまずLGFVの救済を優先する傾向がある。

 

また、地方政府は集団行動に走る傾向があり、中央から特段の圧力がない限り、ある地方政府が傘下の国企のデフォルトを容認すると、他の地方政府に波及しやすいとの指摘がある(2020年11月14日付「新浪財経」)。ただLGFVと国企の区別は曖昧で、LGFVも国企の一形態と見る議論も多い。

 

LGFVが発行する債券(都市を意味する「城市」と「投資」から「城投債」と呼ばれる)の残高は20年12月10.6兆元、19年末比17.6%増、信用債全体の27%に及ぶ(格付会社中証鵬元)。

 

20年はコロナ対応で中央が地方政府の財政規律を緩め、基礎インフラ投資の資金源として城投債発行が期待されたことからその発行が増え4兆元強、これまで過去最高だった19年3.6兆元を大きく超え、年末残高は11.23兆元、AAA以外の低格付債券の発行も増えた(AA+、AAが65%と19年比5%ポイント上昇。2021年2月7日付新浪財経、2020年12月11日付証券時報)。

 

21年償還額はプットオプション含め2.14兆元で前年(2.28兆元)比微減だが(海通証券)、財政力との関係で、天津、江蘇を筆頭に強い償還圧力に直面する地方が多い。デフォルトが私企業から地方・中央国企へと波及していく中で、城投債だけ長く「金身不破」、つまり無傷の黄金仏像と言われてきたが、18年以降城投債にもデフォルトが散見され、20年もデフォルト2本、デフォルト寸前に至ったものが2本確認されている(2020年12月17日付東方財富網)。城投債の剛性兌付崩壊も話題になりつつある。

 

次回は不動産企業のデフォルト増加について述べる。

 

 

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