航空・原子力と比較、医療システムの重大な問題点
医療の場面だけではわからなくても、他の産業と比較することによって、産業システムとどこが異なるのかが明確となり、問題解決の方向性が明確となります。図表1は各システムの特徴を表しています。
●制御対象の数と種類
制御対象(動かしているもの)の数でみると、プラント運転員は原子力発電システム1基※2、パイロットは航空機1機を操縦しています。また、航空管制官はレーダスコープに映し出されている複数の航空機を管制しています。
一方、医療システムの制御対象は患者です。医師は診察場面では一度に1人を診ますが、入院患者の場合、病棟には複数の患者がいるので制御対象は複数です。
※2 2つのプラントを1つの制御室で運転しているという2プラント1中央操作室のものがあるが、基本的には1つのプラントを運転している。
また、航空や原子力では、BWR(Boiling Water Reactor:沸騰水型原子炉)型発電プラント、ボーイング787型機などと特定の型式に限定されているので、特性の種類も少数です。
しかし医療の場合、患者の心身構造の基本仕様は同じでも、制御対象の特性は生まれたばかりの状態から死の直前の状態まで多様で、個人差も大きく、全部異なっていると考えられます。
●不確定要素
もともと原子力発電システムは原子核に関する理論が先にあり、その理論に基づいて技術が開発され、実用化されました。理論が明確なので、他のシステムと比較して不確定要素(わからないこと)は少なくなります。
また、航空機や航空管制は気象の影響を大きく受けるため、不確定要素がまだ多く残っています。
一方、医療の制御対象である患者については、現代の医学であっても、いまだに未知の部分が非常に多く、医師の間でも主張が真っ向から対立している場合があります。
●制御対象の状態
医療システムにおける制御対象の特徴とは、その状態です。この点が他とは大きく異なっています。航空や原子力システムは、ノーマル状態(壊れていない状態)を制御するのが主なタスク(仕事)であり、何かトラブルが発生すると、緊急停止や緊急着陸で対応します。
ところが医療システムの制御対象である患者は、産業システムにたとえると壊れた状態にあると考えることができます。すなわちアブノーマルな状態(異常な状態)を制御しているのであり、制御の本質である将来の予測が非常に困難です。
※3 ここでは、わかりやすくするために患者を壊れたシステムとしたが、完全な人間はほとんどいないと考えられる。私たちは加齢に従って体のいろいろな部分に不具合が生じ、システムが不完全となっていくのが普通である。
さらに、患者は生まれたばかりの新生児から死の直前の状態までの多様な状態があり、毎日変動しています。朝、観察した患者の状態がずっと維持されるという保証はまったくありません。
河野 龍太郎
株式会社安全推進研究所 代表取締役所長
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】