航空・原子力と比較、医療システムの重大な問題点
●制御対象への操作方法
プラント運転員やパイロットは、発電プラントや航空機を常に監視して直接制御し、操作の結果としてフィードバック情報(操作後の状態)が人間へ与えられます。
また、航空管制では、管制官の判断に基づく指示がパイロットに与えられ、パイロットが航空機を操縦するので間接制御となります。管制官の指示は速やかに実行することがパイロットに義務付けられています。プロとプロの関係なので相互の理解は深く、直接制御に近いと考えられます。
一方、医療の場合、たとえば内科医が注射や服薬などの指示を看護師や患者に与え、それを看護師や患者自身が実行することにより制御が行われています。意識のない患者には看護師が医師の指示を受けて処理するので、制御という観点からは間接制御となります。
また、患者には意思があるので、患者の意思を通じて制御することへの配慮、看護師への指示伝達に関する配慮も必要です。
一般に、間接制御の方が困難です。さらに患者には体内に自己制御システムが複数あり、それらが相互に補足し合い、生体としての全体のバランスをとる仕組みがあります。
たとえば、医師は患者に対して水分の補給をして体全体のバランスをとったり、薬剤を投与して部分的な制御を行ったりしますが、それらはすべて生体としての制御システムの制御下にあります。
●リスク低減のためにリスクを一時的に高くする
航空や原子力では、トラブルが発生すると緊急停止や緊急着陸などのリスクを低減する方向に操作します。しかし、医療ではリスク低減のために、あえてリスクを冒さなければならない場合があります。すでにアブノーマルな状況にある患者を改善するには、一時的にリスクが高い状態にせざるを得ないこともあるのです。
たとえば、患者の状態をより正確に把握するためのカテーテル検査においては、挿入したカテーテルが血管を突き破って事故になる可能性はゼロではありません。また、患者というシステムは停止させることができません。患者システムの停止とは死を示すのであり、非可逆(元に戻らない)システムです。