医療事故は「必ず」起こる…航空機や発電プラントとの決定的差

医療に起因する死亡事故は実に多く発生しています。医療に問題が多い理由は、安全に仕事をするために必要な要件が満たされていないからだという。高度な安全を求められる航空や原子力と比較し、医療事故の本質的な不完全さを探ります。※本記事は河野龍太郎氏の著書「医療現場のヒューマンエラー対策ブック」(日本能率協会マネジメントセンター)より抜粋・再編集したものです。

航空・原子力と比較、医療システムの重大な問題点

●制御対象への操作方法

 

プラント運転員やパイロットは、発電プラントや航空機を常に監視して直接制御し、操作の結果としてフィードバック情報(操作後の状態)が人間へ与えられます。

 

また、航空管制では、管制官の判断に基づく指示がパイロットに与えられ、パイロットが航空機を操縦するので間接制御となります。管制官の指示は速やかに実行することがパイロットに義務付けられています。プロとプロの関係なので相互の理解は深く、直接制御に近いと考えられます。

 

一方、医療の場合、たとえば内科医が注射や服薬などの指示を看護師や患者に与え、それを看護師や患者自身が実行することにより制御が行われています。意識のない患者には看護師が医師の指示を受けて処理するので、制御という観点からは間接制御となります。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

また、患者には意思があるので、患者の意思を通じて制御することへの配慮、看護師への指示伝達に関する配慮も必要です。

 

一般に、間接制御の方が困難です。さらに患者には体内に自己制御システムが複数あり、それらが相互に補足し合い、生体としての全体のバランスをとる仕組みがあります。

 

たとえば、医師は患者に対して水分の補給をして体全体のバランスをとったり、薬剤を投与して部分的な制御を行ったりしますが、それらはすべて生体としての制御システムの制御下にあります。

 

●リスク低減のためにリスクを一時的に高くする

 

航空や原子力では、トラブルが発生すると緊急停止や緊急着陸などのリスクを低減する方向に操作します。しかし、医療ではリスク低減のために、あえてリスクを冒さなければならない場合があります。すでにアブノーマルな状況にある患者を改善するには、一時的にリスクが高い状態にせざるを得ないこともあるのです。

 

たとえば、患者の状態をより正確に把握するためのカテーテル検査においては、挿入したカテーテルが血管を突き破って事故になる可能性はゼロではありません。また、患者というシステムは停止させることができません。患者システムの停止とは死を示すのであり、非可逆(元に戻らない)システムです。

株式会社安全推進研究所 代表取締役所長
学校法人東京女子医科大学 理事長特別補佐(医療安全・危機管理担当)
日本人間工学認定人間工学専門家 博士(心理学)
自治医科大学 名誉教授

防衛大学校(航空要員、電気工学)を卒業し、航空局東京航空交通管制部で12年間、航空管制官として勤務。

航空機を衝突コースに誘導するというエラーを経験し、エラー防止を目的に心理学を専攻。

その後、東京電力(株)技術開発本部で原子力発電プラントのヒューマンファクターを研究。ある医療事故の関係者と出会い、医療が安全に関して極めて問題の多いことを認識。

医療安全の問題に本格的に取り組むため、2007年に自治医科大学医学部メディカルシミュレーションセンターに勤務(センター長、医療安全学教授)。

一貫して航空、原子力、医療、交通、製造システムなどのリスク管理および事故におけるヒューマンファクターの問題を研究し続けている。

著者紹介

連載人間の行動メカニズムから理解!医療現場のヒューマンエラー対策

医療現場のヒューマンエラー対策ブック

医療現場のヒューマンエラー対策ブック

河野 龍太郎

日本能率協会マネジメントセンター

医療現場のヒューマンエラーはゼロにはできないまでも、管理して減らすことができます。人間の行動モデルをもとに、 B=f(P、E) という式を知り、それによって人間の行動メカニズムを理解することがその第一歩です。 …

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