医療ヒューマンエラーは、疲労や知識の有無といった「人の状態」と、「環境」を要因として起こります。こうした人間の行動のメカニズムを理解すれば、エラー対策が可能になるといいます。チーム内でのエラーへのアプローチも同様です。パフォーマンスを最大にする考え方について紹介します。※本記事は、河野龍太郎氏の著書「医療現場のヒューマンエラー対策ブック」(日本能率協会マネジメントセンター)より抜粋・再編集したものです。

人の置かれた状況によっても「心理的空間」は変化

――では、同じ人が同じものを見ると、いつも同じに見えるのですか?

 

河野:必ずしもそうなるとは限りません。同一人物であっても、思い描く心理的空間は変わります。たとえば、若い頃に読んだ小説を読み返すと、当時とは違った感想を持つことがあります。物理的空間にある小説自体はなんら変化していません。しかし、それを読む人が年齢を経ていろいろと経験をすると、それに伴って心理的空間も変わるので、小説の感想も変わってしまうのです。

 

このように、人の状態(要因)によって、また認知している環境(心理的空間)によって、人の行動が決められたり、変わったりするのです。

 

もう一度整理しましょう。行動Bは、人の要因Pと環境の要因Eによって決められます。人の要因Pは、その人の特性や状態(疲労度や加齢、知識の量など)によって変わります。一方、環境の要因Eは、物理的空間と心理的空間の2つに分かれます。物理的空間をもとに描いたその人の心理的空間によって、人間の行動は変わります。

 

つまり、人の要因Pと、心理的空間という環境の要因Eによって、人間の行動は決まってしまうのです。

 

人間の行動のメカニズム、つまりこのB=f(P、E)の理解です。これを中心にして、3つのモデルで考えると理解しやすくなる。言いたいのはここなのです。

 

――ここがポイントである?

 

河野:まさにそうです。これを理解してもらえれば、使命はほぼ達成できるのではないかと思っています。

 

――「ヒューマンエラー対策の11段階」とは。

 

河野:まず11段階の発想手順の元となっているのが4ステップからなる戦略的エラー対策です。ステップ1は「作業の数を減らす」、ステップ2は「エラー確率を低減させる」、ステップ3は「多重のエラー検出策を設ける」、ステップ4は「被害を最小にするために備える」であり、それを分解して具体的な11段階の戦術的エラー対策としました。ここでは発生防止と拡大防止に分けて、人間の行動モデルを組み込んでつくりました(図表)。

 

11段階の戦術的エラー対策の発想手順

 

こうして11段階をよく見ると、2次元のマトリックスとなっていることがわかります。時間軸で見ると、発生防止と拡大防止、もう1つの軸では人間側か環境側かに整理されています。これも、B=f(P、E)が基本となっています。これに時間が加わっています。

パフォーマンスの最大化で、安全と効率は両立する!

――さて、これまで個人としての考え方について説明いただきました。では、職場でのチームについてはどうでしょう。

 

河野:確かに、ここまで述べてきたのは個人としての情報処理モデルです。現場ではチーム特有のコミュニケーションやリーダーシップに関係したヒューマンエラーも発生しています。ただ、基本的なアプローチは同じなのです。

 

リーダーであっても、行動は心理的空間によって判断しますから、誤った情報しか届いていなければ、確実に間違った判断をしてしまいます。リーダーが積極的に正しい情報を取得するなどの対応は必要でしょう。こうしたコミュニケーションやリーダーシップなどは、その組織の組織文化につながります。

 

医療の現場でヒューマンエラーを減らしていくには、個人としての対策、組織全体・組織文化というように、双方からアプローチしなければなりません。トップの方にも読んでいただいて、トップダウンとボトムアップによって、ヒューマンエラーを減らす取組みをしていただきたいですね。

 

――読者の皆さんにひと言。

 

河野:ここで紹介している考え方は、ヒューマンエラーだけに限るものではありません。最低限知っておいてほしい「行動のメカニズム」であり、パフォーマンスを最大にする考え方です。

 

作業をやりやすくする、間違いがないようにする、効率的にする、これらは一見相反するトレードオフの関係にあるように思われますが、安全と効率は同じベクトル上にあり、両立させることが可能です。

 

ヒューマンエラーの問題は、エラーをしてしまった個人に責任を押し付けるようなものではありません。そうした職場では、また必ず重大なヒューマンエラーが再発してしまいます。そうしないためにも、システムとしての考え方を理解して、科学的に人の行動を理解する、また、メカニズムをモデルによって把握して、理にかなった対策を取るようにしてください。

 

このように人の本質を見極めてこそ、ヒューマンエラーを減らしていくことができます。エラーに怯えながら日々の仕事をするのでなく、行動という切り口からエラーに立ち向かうような考え方を持っていただきたいと思っています。

 

 

河野 龍太郎

株式会社安全推進研究所 代表取締役所長

 

 

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