NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。夫の天外との20年の結婚生活に終止符を打った千栄子が潜伏先に選んだのは京都だった。彼女には休息が必要だった。人目に触れない場所で心身を休ませたかったのだろう。そのとき過去になりかけていた千栄子を必死で探す人物がいた。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

女優としての千栄子の存在感は増していった

「苦労ちゅうものは、無駄にはならへんもんやな」

 

辛い少女時代に思いをはせながら、それを実感したことだろう。

 

『アチャコ青春手帖』の放送は2年で終了した。

 

この頃になると、千栄子には「大阪のお母さん」のイメージがすっかり定着している。松竹新喜劇の頃よりも、さらに世間での知名度は高まった。

 

また、昭和29年(1954)12月からは、千栄子と花菱アチャコの黄金コンビによる新番組のラジオ・ドラマ『お父さんはお人好し』がスタートする。

 

今度は千栄子とアチャコが夫婦役を演じることになった。

 

『お父さんはお人好し』は、関西地域だけではなく、東京をはじめとする全国各地で放送された。

 

以前にも大阪放送局制作のラジオ・ドラマが東京で放送されたことはあるが、それは、台本のセリフに手直しをくわえて、大阪で放送するものとは別に録音されたものが使われていた。

 

それは大阪弁を聞き慣れない関東地域の聴取者に配慮して、標準語に近いものだった。

 

しかし、『お父さんはお人好し』ではこの手直しを一切やらず、千栄子とアチャコがしゃべりまくる、コテコテの大阪弁がそのまま放送された。

 

「へぇ、おおきに」

 

などと、ラジオで聴いた千栄子の口調を真似て、おどける者も現れる。彼女の柔らかく味のある大阪弁は、東京でも好感をもたれるようになり、漫才と同様に大阪弁を全国区とするために一役買った。

 

一方、松竹新喜劇のほうも、千栄子の退団から半年が過ぎた頃に、道頓堀・中座で初演した『桂春団治』が評判となっていた。その後はさらに文芸色を強めた作品を次々に上演するなどして、人気がすっかり定着した感がある。

 

東京でも頻繁に公演が行われるようになって、いまやこちらも全国区。

 

ラジオと舞台、世界は違えども数年前に世間を騒がせる愛憎劇を演じた元夫婦は、東京を舞台に大阪の芸能を代表する者同士として競いあう。

 

「絶対に負けへん」

 

そんな意地があったのかもしれない。松竹の看板劇団を相手に競い合えるほどに、女優としての彼女の存在感は増していた。

 

青山 誠
作家

 

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浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

青山 誠

角川文庫

幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、けして絶望することなく忍耐の生活をおくった少女“南口キクノ”。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを一身に浴びる存在となる。松竹新喜劇の…

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