NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。女優復帰を果たした千栄子は映画や舞台への出演依頼も相次ぐようになる。小津安二郎監督の『彼岸花』、黒澤明監督の『蜘蛛の巣城』、内田吐夢監督の『宮本武蔵』等々、日本を代表する巨匠たちの作品に出演者として名を連ね、映画に欠かせない存在となっていく。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

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オロナイン軟膏のCMで知らない者がいない存在

映画の時代が終わっても色褪せない存在感

 

千栄子が嵐山に住むようになった昭和30年代になると、映画業界の繁栄はピークを過ぎて、陰りが見えはじめていた。

 

昭和33年(1958)には全国の映画館数が7000館を超える数になり、入場者数は11億2745万人に達している。この年は国民1人あたり年間12.2回も映画館に足を運んだ計算になる。

 

2年後の昭和35年(1960)になると映画館数はさらに増えて7457館になったが、入場者数は10億1436万人とすでに減少傾向に転じていた。

 

長らく娯楽の王様だった映画は、その地位をテレビに取って代わられたという。(※写真はイメージです/PIXTA)
長らく娯楽の王様だった映画は、その地位をテレビに取って代わられたという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

さらに5年後の昭和40年(1965)には3億7267万人に激減し、1人あたりの平均入場回数も3.7回。人々の映画館離れが顕著になってくる。

 

それはテレビの影響が大きかった。昭和28年(1953)の放送開始から数年間、テレビの世帯普及率はひとケタ台で伸び悩んでいた。

 

しかし、昭和33年(1958)になるとこれが倍以上に増えた。この年には明仁親王(現在の上皇)と正田美智子さんの婚約が発表されている。「平民」の娘と皇太子のラブロマンスに日本中が熱狂し、翌年に控えたご成婚パレードを見るために人々はテレビを欲したのだ。

 

翌昭和34年(1959)にはテレビの家庭普及率は23.6%に達した。各メーカーが量産体制に入ったことで小売価格も下がる。テレビ購入者はさらに増え続け、昭和40年(1965)になると、ついに家庭普及率90%を超える。家にテレビがあるのが普通の時代になってきた。

 

家にテレビがあれば、スイッチをひねるだけでドラマを見ることができる。

 

わざわざ外出して映画を見るのは億劫になり、その頻度は減る。当初は映画業界でもテレビに観客を奪われないように、新作・旧作を問わず劇映画をテレビには提供しないという協定を締結した。

 

各テレビ局でもオリジナルのテレビ・ドラマを増やしてこれに対抗し、60年代には各テレビ局が大量のドラマを製作するようになった。

 

テレビの勢いは止まらない。映画離れは進んでゆく。昭和36年(1961)には大手5社の一角だった新東宝が倒産し、昭和40年代には映画館の数も最盛期の半分に激減している。

 

京都の映画撮影所ではテレビ放送用の時代劇ドラマを製作するようになり、長らく娯楽の王様だった映画は、その地位をテレビに取って代わられた。

 

そんな時代の流れのなかで、千栄子の仕事も60年代になってからはテレビが多くなってくる。当時のテレビ・ドラマは視聴率20%があたり前、30〜40%といったものも珍しくない。それだけに彼女の認知度はさらに高まった。

 

夏休みのアニメや怪獣映画しか見ない子どもや主婦層もこの頃になると、

 

「あっ、あの人は見たことある」

 

と、どこにいても注目が集まる。

 

オロナイン軟膏のCMに出演するようになってからはなおのこと、もはや誰も知らない者がいない存在になっていた。

 

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浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

青山 誠

角川文庫

幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、けして絶望することなく忍耐の生活をおくった少女“南口キクノ”。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを一身に浴びる存在となる。松竹新喜劇の…

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