NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。夫の天外との20年の結婚生活に終止符を打った千栄子が潜伏先に選んだのは京都だった。彼女には休息が必要だった。人目に触れない場所で心身を休ませたかったのだろう。そのとき過去になりかけていた千栄子を必死で探す人物がいた。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

千栄子が潜伏先に選んだのは京都だった

京都での静かな日々

 

「私は終始一貫して、妻である私と、女優である私の血闘をくりかえしながら、春を迎え、秋を送り、雨の日も風の日も、二十年間、渋谷天外とともに生きてまいりました」

 

『水のように』から抜粋した一節。

 

天外の信頼と愛情を勝ち得るため、20年間にも及ぶ苦しい戦いに耐えてきた。敗れ去り、すべてが徒労に終わった時、これまでたまりにたまった疲労に押しつぶされそうになる。

 

彼女には休息が必要だった。人目に触れない場所で心身を休ませたかったのだろう。

 

千栄子が潜伏先に選んだのは父の呪縛から解放してくれた街、女優という天職を与えてくれた街である京都だったという。(※写真はイメージです/PIXTA)
千栄子が潜伏先に選んだのは父の呪縛から解放してくれた街、女優という天職を与えてくれた街である京都だったという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

千栄子が潜伏先に選んだのは京都だった。父の呪縛から解放してくれた街、女優という天職を与えてくれた街である。心の傷を癒し、再起を図るには最良の地だ。

 

はじめて京都に行った頃とは違って、大阪からの列車は私鉄などの選択肢が増えている。時間も短縮された。

 

私鉄の京阪電車が大阪・天満橋駅から京都・三条駅まで、特急列車を走らせるようになり、1時間かからずに行けるようになっている。

 

運賃は国鉄より安く、道頓堀など大阪中心部から京都をめざすには、国鉄や阪急よりはこちらを利用するのが一般的だ。

 

千栄子もこのルートを使ったはずだ。沿線には、かつて彼女が女給として働いたカフェーから近い師団前駅がある。太平洋戦争中に機密保護の目的で「藤森駅」と改称されていた。沿線に集まっていた陸軍施設もこの頃には、アメリカ軍が接収して使っていた。

 

兵舎の屋根には、白いペンキで書かれた英語の文字が目立つ。しかし、電車が駅前を通過した時には、極楽橋の対岸に懐かしい思い出の地を目にすることができる。

 

あの小さな商店街は、当時とあまり変わらぬ様子で残っていた。車窓の景色を眺めるうち、懐かしい記憶がよみがえる。

 

「また、振り出しに戻ってしもたな」

 

明日から何をやればいいのか……と、あてもなく大阪を飛び出してきたのは、あの頃と同じだ。20年以上が過ぎても何も変わっていない。そう思うと、つい口元に苦笑いを浮かべてしまう。

 

京阪の祇園四条駅で降りると南座がある。江戸時代から歌舞伎の興行が行われてきたこの日本最古の劇場は、明治末頃に松竹が買収して、直営劇場になっている。

 

千栄子が東亜キネマを辞めて京都を去った後の昭和4年(1929)には、鉄筋コンクリート4階建ての巨大劇場に建て替えられた。

 

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浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

青山 誠

角川文庫

幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、けして絶望することなく忍耐の生活をおくった少女“南口キクノ”。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを一身に浴びる存在となる。松竹新喜劇の…

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