医師という職業に対する安定志向の高まり、私大医学部の学費値下げ(東京女子医科大学など、現時点では数校値上がりしている大学がある)などもあり、近年、医学部人気が高まっているという。従来からの医師家庭や富裕層にサラリーマン家庭が続々参戦し、全国の82医学部入試の難易度が上昇している。では、どうすれば難関の医学部を突破できるのか。わが子の育て方、接し方から入試対策までを明らかにする。本連載は小林公夫著『わが子を医学部に入れる』(祥伝社新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

多浪生が見た医学部受験の厳しい現実とは

多浪生が見た現実

 

何度も受験を経験していて感じたのは、試験問題が年々難しくなったことだそうです。2015年の慈恵医大は募集人数110人に対し、入学志願者は2400人が集まりました。

 

また、順天堂大医学部附属順天堂病院の天野篤医師(日大医学部出身)が天皇陛下の執刀をしてから、日大医学部の志願者が増加、2015年は4411人の受験生が120人の席を争いました。しかし、Fさんは学力がついており、対策もしっかり行なっていたので、2015年は解けないような問題はなかったそうです。

 

かつて、「多浪生は医学部に受からない」と言われていましたが、今は一次試験に関してはあまり関係ないようです。ただ、すべての大学がクリーンというわけではありません。

 

たとえば、Fさんは旧設の二つの医学部では自己採点で80%以上取れており、はっきりと手応えを感じましたが、通りませんでした。もちろん、あと2、3点足りなかった可能性はあります。しかし、それらの大学に入学している人たちを見ると、ほとんどが現役生か1浪生で、2浪はせいぜい1人か2人。多浪生には厳しい状況があるのではないかと推測されます。

 

「結局、試験でどれだけ点数を取れるか。取れるだけ取ってしまえば問題はないんです。多浪生は面接でそれなりに減点を食らうだろうから、それをリカバリーできるくらいに、一次試験で得点しておくべきなんですね」と言うFさん。

 

昔は大学側に、どうせ二次試験で落とすから一次も通さない、ということが少なからずあったようです。それと比べると、ある意味で公平になってきているとも言えます。

 

Fさんは多浪生の合格者が多い日大医学部を選択し、多浪生がハンデにならないような状況で、結果を出すことができました。

 

ちなみに、試験会場では日大医学部は女性の志願者が多かったと感じたそうです。多浪生や再受験生も受け入れることから、受験生が多く集まったのでは、と推測されます。日大医学部や杏林大医学部では、Fさんより年上の人や一度勤めてから受験したような人もいたようです。同じ医学部でも受験者、合格者には各大学の個性が現われているので、過去問以外にも分析することが必要です。

 

母子家庭の医学部受験

 

Fさんが当初通っていたS予備校のような大手予備校には、公立高校出身者や女性も多く在籍し、ハングリー精神やピリピリとした緊張感を感じたそうです。

 

男女比は半々くらいで、Fさんの知人で私立校出身者の女性は慈恵医大、日大医学部、筑波大医学群医学類、千葉大医学部などへ進学、母子家庭で都立高校出身の女性は防衛医大に進学しました。

 

その方は私立医学部を1校も受験せず、勉強は国公立医学部対策のみでした。見た目はチャラチャラしたような印象を受けたのですが、中身はしっかりとしていたようで、お金がかかるからと夏期や冬期の講座も取らず、予備校で与えられた最小限の教材をボロボロになるまで使い込んでいたそうです。

 

S予備校は安価なクラスでも前期44万円、1年で100万円ものお金がかかり、私立高校に通うのと同じくらいの出費となります。言うならば、「保険」がひとつもなく一発勝負に賭けるようなもので、経済的に余裕のある人たちに比べ、厳しい戦いをしていたのでしょう。

 

また、クラスの知り合いは、ほとんどが医師の子どもではなかったそうです。それでも、外交官、銀行マン、薬品関係、会社経営者、共働きのサラリーマンなど、家計にゆとりのある家庭の子どもが多いようでした。

 

医学部は、入学後も実習費や医療器具代など、学費とは別にお金がかかります。Fさんの家庭でも、お兄さんは就職していますが、2人の弟はまだ学生であり、家計の負担が大きいため、月に10万円ほどの奨学金をもらっています。Fさんが進学した日大は奨学金制度が充実しており、10種類ほどのなかから、他学部でも受けられるシステムで手厚いサポートを受けているそうです。

 

小林 公夫
作家 医事法学者

 

 

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わが子を医学部に入れる

わが子を医学部に入れる

小林 公夫

祥伝社

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