医師という職業に対する安定志向の高まり、私大医学部の学費値下げ(東京女子医科大学など、現時点では数校値上がりしている大学がある)などもあり、近年、医学部人気が高まっているという。従来からの医師家庭や富裕層にサラリーマン家庭が続々参戦し、全国の82医学部入試の難易度が上昇している。では、どうすれば難関の医学部を突破できるのか。わが子の育て方、接し方から入試対策までを明らかにする。本連載は小林公夫著『わが子を医学部に入れる』(祥伝社新書)から一部を抜粋し、再編集したものです。

浪人1年目、予備校で突きつけられた本当の実力

予備校の最下位クラスから

 

5年間の浪人生活を送ったFさんに、その原因を尋ねたところ「高校生の時には医学部をすこし舐めていて、本腰を入れて勉強しなかったから」という答えが返ってきました。

 

しかし、浪人1年目のS予備校で最初のクラス分けの時に一番下のクラスになり、はじめて「自分はこんなにできないんだ」と実感したそうです。祖父や父親の存在があり、医師というものが身近すぎて「すこしがんばれば医師にはなれるだろう」と無意識に思っていたのかもしれません。

 

S予備校では、テキストを繰り返しこなしましたが、基礎がなく、ただ上から問題をなぞっているような感覚があったと言います。目の粗いザルで問題を洗っても、押さえておくべき大切な要素が抜け落ちていくようなイメージでしょうか。基礎の確立、という課題が見え始めた年でした。

 

2年目からは、すこしずつ問題を解ける感覚が出てきましたが、受験は失敗。3年目は、大手の予備校ではなく医学部専門のN塾に通いました。その年は日本大(以下、日大)医学部の一次試験は通りましたが、二次試験(面接・小論文・適性検査)で不合格になりました。3年目以降は、合格するまで偏差値はあまり変わらなかったということなので、3年間で医学部進学のための実力は備わっていたと思われます。

 

4年目は、個別指導のMへ。ここでは週に英語を2コマ、数学、化学、物理を各1コマずつ取り、1日に必ず1コマを受講するように組みました。しかし、今になって思えば、ここでの1年にはあまり手応えを感じられなかったそうです。

 

5年目は、「人がやっていない時に勉強をする」というスタンスで、誰よりも塾に早く来て勉強をしていました。自分に合った生活スタイルで無理せず続けることが前提なので、誰よりも遅くまで――にはしませんでした。しかし、人が寝ている間、休んでいる間、ご飯を食べている間にすこしでも差をつけようと努力をしました。

 

さらに、東日本大震災で地元福島が原発事故に見舞われたことも、少なからず影響しました。父親からは「まだ放射線量が高いから戻ってくるな」と言われましたが、知人のなかには安否がわからない人がいたり、中学の先生からは目の前まで津波が来たという話も聞きました。友人や家族、原発のことを考えると、勉強が手につかない日々を、その年の夏まで送りました。

 

勉強法としては、「いかにして早い段階から基礎を固められるかがポイント」と言うFさん。具体的には、教科書レベルから徹底してわからない問題がない状態にすること。そして、予備校のテキストについても、いきなり指名されても自分で授業ができるくらいに理解することが必要だそうです。

 

予備校では事前にテキストを予習し、授業で答え合わせをして、どれくらい解けるかをチェックしたそうです。5年目のスタート段階で、自分で統計を取ったところ、75%の理解度をクリアしていました。そこから90%を目標に勉強を進めていったと言います。こういう基本を大切にする姿勢が大事なのです。

 

Fさんが反省点として挙げるのは、私立医学部の過去問題(以下、過去問)に取り組む時間が少なかったことです。夏休みの終わりから週に1回のペースで「赤本(大学、学部別の過去問を集めた問題集)」に取り組み、穴が見つかるたびに埋め合わせていきましたが、もっと早くから予定を組んで10年分くらいはやりたかったそうです。それでも物理は、昭和大医学部で10年分取り組みましたし、各教科について、志望した大学は最低5年分はこなしました。

 

過去問に取り組む時間は、予備校の昼休み(1時間)を使いました。東京医科大、杏林大医学部は試験時間が60分間なので、本番の緊張感も考慮して50分間で取り組んだそうです。

 

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わが子を医学部に入れる

わが子を医学部に入れる

小林 公夫

祥伝社

近年、医学部志願者が急増しています。その要因として、医師という職業に対する安定志向の高まり、私大医学部の学費値下げなどがあげられます。これにより、従来からの医師家庭や富裕層にサラリーマン家庭が参戦。全国の82医学…

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