小論文に二大潮流、「直球型」と「変化球型」
二次試験対策 小論文
医学部2次試験の小論文は、最近の傾向としては大きく二つの潮流があります。一つは医学的な話題を書かせる直球型であり、もう一つはやや奇をてらった変化球型です。
前者の医学的話題を書かせる直球型に関しては、例えば、2015年度昭和大学医学部2月8日出題の小論文が該当しますが、高得点を出すには、やはり知識量が大きくものを言います。
出題された昭和大学医学部小論文の概要はこうです。
内容は末期の脳腫瘍で余命宣告を受けた29歳(当時)の米国人女性に関するもので、彼女が医師から処方された薬により自身の死をコントロールし、尊厳死したことについて、「安楽死と尊厳死について、あなたの考えを述べなさい」というものでした。
受験生にしてみたら、複雑で混乱する内容の出題で書きにくいでしょう。何故なら、上記文章中の「 」の前にある尊厳死と「 」内「安楽死と尊厳死について~」の尊厳死は表記は同じものの、内容は異なるからです。「安楽死と尊厳死」という記述は通常、日本の分類に従い積極的安楽死と消極的安楽死(尊厳死=治療の中止)のことを指します。
ところがアメリカの尊厳死は、わが国で言えば、積極的安楽死に近似した行為態様が含まれており、こちらの方が議論の中心とされています。我が国のような治療の中止だけを指すものではありません。医師が直接処置するのではなく間接的に自殺の幇助という形態をとる点で差異はあるものの、積極的に患者に致死量の薬物を処方するからです。
尊厳死法によりこの行為は適法ですが、人工呼吸器を外すなどの消極的な治療の中止とは全く訳が違います。多くの受験生はそこまで踏み込んで書くことは難しかったことでしょう。
しかし、概念に関してまず交通整理をしてあげなければなりません。知識量がものを言うケースです。その上で、何故アメリカでは医師が自殺の幇助をすることが正当化されているのかについて言及しなければなりません。患者の自己決定権がものすごく重視されているのが見て取れますね。
「まとめ」
日本の尊厳死→治療の中止(人工呼吸器を外すなど)
アメリカの尊厳死→①医師が適法に患者に致死量の薬物を処方する(薬物の処方箋を書く)
②延命治療の中止と差し控え
上で述べた後者の奇をてらうパターンは、試験場で面食らうパターンです。順天堂大学医学部医学科の風変わりな小論文や、杏林大学医学部医学科の1行形式の小論文でよく見受けられます。
順天堂大学医学部の1月の試験では、下を向きながら階段を昇る男性のうしろ姿と赤い風船が二つ写っているイギリス・ロンドンのキングス・クロス駅の写真から、「あなたの感じるところを800字以内で述べなさい」という出題がなされました。
この難問に接し、私の教え子(横浜市立大学医学部医学科に合格)は、大筋として以下のようにまとめました。
「我々は目先の情報にとらわれ奔走して、周りが良く見えなくなっている。冷静に周りに目配りすれば、様々な事柄に気付くはずだが、我々はそれができていない。本来、心を豊かにしてくれる大切な何かを我々は忘れがちなのではないか。言うは易く行うはかたし、だがそういう気持ちを大切に生きたいと思う」
同大の2月の試験(当時、センター試験利用入試)では、森林と海が広がる写真に「The sea belongs to whoever sits by the shore」という英詩が添えられ、「詩の内容を踏まえて、あなたが海辺に腰かけて思うことを600字以内で述べなさい」という問題が出題されました。
先の教え子は、写真の情景描写を150字程度で説明したあとに、
「気持ちが落ち込んだ時に、僕はその場所に座るだろう。はるかむこうを見渡すと、わずかに海面が光っているのが見える。わずかに丸みを帯びて、地球が丸いことがわかる。満潮になって家に帰る時には、僕の心も晴れ晴れとしているだろう」
という内容を書きました。