医学部は医師を目指す人が入学する
医学部入試の特殊性
医学部入試は、他の学部と比べるとかなり特殊です。
その第一は何よりも、入学試験と就職試験が一度になされる点です。あたりまえですが、医学部は医師を目指す人が入学する場です。主に大学入学後に進路や就職先を考える他学部生と異なり、入学前に医師や研究者になることを決めているのです。実際、医学部を6年修めたあと、民間企業に勤める人はよほどの事情がない限り、おりません。
第二に、医師という仕事が人の生命に関わる非常に重い仕事であることです。どんなに学力が高くても、医師としての適性や覚悟のない人が医学部に入学し、医師になるとしたらどうでしょう? そのような医師に自分の生命と健康を委ねることができるでしょうか?
臨床医や研究医、病理医など仕事の内容はさまざまでも、ほぼすべての卒業生は医師免許を取得し、医業に従事します。ですから、受験生の審査にあたり、本人に医師としての適性や覚悟があるのか、もしなければ入学を許可するわけにはいかない――そうした強い信念の下に実施されているのが、医学部入試なのです。
大学側は一次試験を通過した受験生の能力、適性の他、医業に従事する覚悟を、さまざまな角度から見極めようとします。単に成績が良く、偏差値が高いから受験した、経済的に恵まれていることだけが医師の志望理由であるとしたら、大学側の厳しい審査ではじかれてしまうこともあるのです。
私立医学部の入試傾向
意外なことに、実は、難解なのが私立医学部の入試問題です。私立大学は文部科学省の〝縛り〞から自由であるため、きわめてマニアックな問題が出題されています。
特に顕著なのが英語で、医学に特化した事柄が出題される傾向にあります。英語の医学論文をある程度読めるレベルの語学力がないと、とても太刀打ちできません。
たとえば、日本医科大の2015年の英語の最初の問題は、医療に貢献した医師の人間性について述べられた英文でした。2問目は視覚に関わる脳の機能について、3問目はアメリカのバージニア大で行なわれた心理学的調査の話です。他学部の入試で問われている文学や芸術、社会科学などは出題されていません。
杏林大医学部は、近年の傾向を見ると、「看護と治療のための意思伝達」「難病の子どもを医師にした母のサポート」「医師にとって必要不可欠なもの」「医師の的確な診断と迅速な対応と救命の可能性」「生身の人間による診断決定」「パンデミック(感染爆発)抑止策におけるデータ主導型決定と課題」という、やはり医学的な内容の英文が出題されています。