2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けた。ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字を計上するなか、トヨタ自動車は2020年4月~6月期の連結決算(国際会計基準)では、当然のように純利益1588億円の黒字を叩き出した。しかも、2021年3月期の業績見通しは連結純利益1兆9000億円と上方修正して、急回復を遂げる予想だ。トヨタ自動車はいったい何を行ったのか、本連載で明らかにする。

変化の激しい危機の最中こそ、最新の情報が必要

2月4日に始まった対策本部だが、毎日、開いていたのが3か月後には閉会した。特に終了宣言をするわけではなく、「トヨタの危機管理人」として座長を務める朝倉が「もういいだろう。今後は問題の都度、招集する。大部屋は当面残し、情報はアップデートしてほしい」と言ったところで終わる。

 

部品の供給が平常に戻ったのがちょうどその頃だった。ただ、供給危機への対応は終わったが、医療機器、医療用防護ガウンの製造などへの支援は続いていた。

 

さて、ここからは、災害、感染症の危機のたびに、部品の調達網をつなぐ仕事をし、また数ある協力工場へ赴いて復旧支援してきた危機管理人、ザ・ウルフ朝倉に危機への対処について、ノウハウを語ってもらう。

 

「今回はある部品の供給が止まりました。いくつかの仕入れ先がありますが、どの社もフィリピンに工場を持っていたのです。フィリピンは都市が封鎖になったので、工場の操業ができなくなりました。生産能力はあるのだけれど、従業員が出社できなかった。病気でもないし、工場が被災したわけでもない。それでも作ることができなかったのです。

 

ただし、徐々に封鎖も解けてきて、出社できる州もありました。状況は時々刻々と変わりました。これ、災害でも、経済危機でも、危機の特徴なんです。うちの友山が『危機は大きな変化だ』と言ったでしょうけれど、危機の最中は事態の変化が激しい。つねに新しい情報を入手しなければいけない。

 

危機管理では我々はつねに調達と一緒になってやります。まず日本の全工場における車の生産台数を調べる。そうすると、各部品の日当たりの必要量がわかる。生産能力が全世界の協力工場で半分になったとわかったら、次は在庫量を調べる。

 

トヨタの場合は他社とは違い、在庫量が少ないんです。他社が2週間分とすればうちは2、3日分しか持っていない。リーン(引き締まった、ムダのないの意)な体制だから、実は年がら年中、供給危機に対応しているようなものです。災害や新型コロナの危機では対応する工場と量が大きく増えただけです」

 

次ページ日頃からの各部署の連携が、危機の備えには欠かせない

本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力

野地 秩嘉

プレジデント社

コロナ禍でもトヨタが「最速復活」できた理由とは? 新型コロナの蔓延で自動車産業も大きな打撃を受けた―。 ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字となる中、トヨタは当然のように1588億円の黒字を達成。 しかも、2021…

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