「正確な決算書」なら銀行融資も通りやすい
前回に引き続き、中小会計要領の普及によって多くの中小企業が会計の見直しを行い、経営の改善を果たしています。今回は、具体的な効果の1つとして「資金調達力の強化」について見ていきます。
【資金調達力の強化】
中小企業にとって、「まとまったお金が必要になった」「もう少し増資したい」というとき、スムーズに資金調達ができるというのは、それだけで強みになります。金融機関に融資を申し込む際、金融機関側は「会社の値踏み」をします。お金を貸して回収できる相手かどうかを見極めて、「合格」した会社にしかお金を都合してはくれません。値踏みをするとき、判断材料となるのが決算書です。
金融機関は決算書から経営の見通し、返済能力、担保などをチェックします。金融機関が求めているこれらの情報をタイムリーに提出することができれば、その分、審査はスムーズに進みます。早く審査が通れば早く融資が受けられて経営に活かせます。しかも、判断材料となる決算書に嘘偽りや間違いがないことが分かれば、先方の心証も良くなることでしょう。融資の審査をする側も人間ですから、「真面目な会社」「正直な会社」という好印象を与えることは大事です。
そもそも、あなたがお金を貸す立場だとして、「正確な決算書」を持ってきた会社と「いい加減な決算書」を持ってきた会社、どちらに貸したいと思うかを考えてみれば、答えはおのずと出ます。同じような会社の規模なら、考えるまでもなく前者を選ぶに違いありません。正確な決算書というのは、それだけで融資の審査を通りやすくしてくれるのです。
金融機関は今、金余りの状態にあり、国債などを購入しています。しかし、本来は国債の購入などより、企業に融資をしたいという思いを持っています。きちんとしたビジネスプランを提示することができれば、いわゆる貸し渋りのようなことはしません。
実際、筆者が手掛けた例でも、「2カ所ある借用工場を1カ所に集約化してコストカットを図りたい。そのために、広い工場用地を買う資金を借りたい」と、綿密な計算書を添えて申し出たところ、すんなりと通ったという経験がたくさんあります。
要は、広い工場用地を確保することで会社が得られる利益率や融資の返済計画を明示できるかどうかなのです。客観的な指標によって返済がきちんと行われることが確認できれば、金融機関はむしろ喜んで融資をしてくれるでしょう。
優良な取引先との関係構築にもつながる
もう1つ、正しい決算書を作ることで得られるメリットとして、「優良な取引先として他社から選んでもらいやすい」というものもあります。中小企業にとって、優良な取引先と長く付き合っていくことが事業の発展や存続につながります。こちらの決算書を開示することで、それを見た相手会社が信頼してくれ、「お宅と取引がしたい」と言ってくれる確率が上がります。
逆にいえば、相手の決算書を見て、「この会社となら取引しても良さそうだ」とか「この会社になら投資しても大丈夫だ」と判断することができます。よりリスクの少ない取引や投資をすることが可能になるのです。
中小会計要領を用いた会計処理が、収益の向上や資金調達の円滑化の武器になることがお分かりいただけたでしょうか。
図表に挙げたのは、中小会計要領を導入した会社が、導入することによって得られた効果を答えたものです。半数近い会社が「収益の拡大」やます。「コスト意識やモチベーションの向上」「金融機関や取引先等との関係良化」を実感したと回答しています。
金融機関との間で築いた信頼関係を維持していくためには、毎決算期終了後、社長や幹部等の複数で金融機関を訪ね、経営状況を報告することが大事です。経理担当者だけで向かわせるのは良くありません。経理担当者と金融機関が密着し過ぎて、不要な融資まで受けてしまうなど会社にとって不利益をもたらす場合があるからです。
また、経営が悪化したときには金融機関への定例報告は行きづらいものですが、そこをあえて行くようにしましょう。そうやって相手に誠意を示すことで、信頼関係を強くすることができるからです。
【図表 中小会計要領の導入で得られた効果】