前回は、成長企業の経営ノウハウについて、衣料チェーン「しまむら」の事例を解説しました。今回も引き続き、しまむらの高収益を支える「仕入型ビジネス」について見ていきます。

仕入れ価格を抑えられる「全量買い取り型」の概要

しまむらは商品のほとんどをメーカーから仕入れて店舗で販売する、いわゆる「仕入型ビジネス」の典型です。

 

通常、仕入れ主体のビジネスは低収益になりやすい特徴があります。なぜなら、仕入の過程では価格に上乗せできるような付加価値を生み出すことが難しいからです。しかし、しまむらは仕入ビジネスで高収益を上げています。その秘訣は、全量買い取り型といわれる仕入方式にあります。

 

仕入れ機能を本部に集約し、一括仕入をするのです。まとまった量の商品を「返品なしの全量買い取り」にすることで、仕入価格を低く抑えることができます。また、400社に及ぶ取引先を活用することで、商品の品揃えが常時4万~5万アイテムと豊富になるとともに、企業間の価格競争による価格水準の引き下げにも効果が生まれます。

 

商品の仕入で1つ、「うまいやり方だな」と私が感心したのは、店頭における1アイテム当たりの数量を少なく抑えていることです。たとえば婦人服の場合は、店頭在庫を2着までにします。こうすることで、近隣に住む顧客同士が同じ服で出くわし、気まずい思いをする……という事態を意図的に避けているのです。

 

顧客側の心理を丁寧に掬い上げている好例として、他業種でも何かしらのヒントになるのではないでしょうか。

納入業者にとって「優良な取引先」になっている理由

しまむらはまた、取引先との関係も非常に良好です。それは低価格を実現するために取引先に不当なしわ寄せをしたり、商品の買いたたきをしたりしないからです。全量買い取りが基本なので返品もありません。

 

そして、支払い条件がとても良いのです。仕入型ビジネスを行う企業では、一般的に手形での取引が行われます。商品を先に納入させて、代金は手形で渡し、後からキャッシュを振り込むという流れです。

 

しかし、しまむらのB/Sでは受取手形も支払手形も科目計上されません。つまり、商品の納入から間をおかずに現金での支払を行っている、いわゆる「とっぱらい」をしているということです。

 

納入業者にしてみれば、売掛金の回収をしそびれるリスクがないため、非常に優良な取引先といえるでしょう。

 

多くの納入業者が「しまむらと取引がしたい」と望めば、それだけ良い商品を持って提案に来るわけで、おのずとしまむらには良い商品ばかりが集まることになります。

本連載は、2015年7月30日刊行の書籍『低成長時代を生き抜く中小企業経営9カ条』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

真下 和男

幻冬舎メディアコンサルティング

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