前回は、子会社サポートで留意したい「同族会社行為判断」の基準について解説しました。今回は、成長企業の経営ノウハウについて、運送会社の事例を見ていきます。

「地の利」を見抜いた運送会社のケース

他社の成功事例からその経営ノウハウを学び、自社に応用することで道が開けることもあります。そのヒントとなりそうな実例を、2つ紹介することにしましょう。

 

1つは地方で頑張る中小企業の例として、埼玉県東松山市にある大沢運送株式会社という会社の話をします。もう1つは、地方の一介の中小企業から全国チェーンへと大飛躍を遂げた衣料品チェーン店「しまむら」の話です。いずれも私が職業会計人として関与したクライアント企業です。

 

大沢運送株式会社は、現在は資本金8000万円、2015年3月期売上高は28億7600万円という大企業にも引けを取らない業績を誇る会社に成長しています。埼玉県・滋賀県・栃木県に自社倉庫を22棟所有し、延床面積は約1万坪、所有する土地は約2万3000坪にもなります。

 

しかし、50年前の創業当時は、トラック1台での開業でした。まさに吹けば飛ぶような弱小の個人開業だったのです。ただし、創業者である現大澤浩会長の目のつけどころが良かったのは、「東京周辺50~100キロ圏内は急速に流通が発展する地域である」と見抜き、当初、東京の小平市で商いを始めたことでした。

 

本人の営業努力も当然あったでしょうが、おそらくそれ以上に開業した場所の利が大きかったと思います。会長が睨んだ通り運送業務のニーズは高く、すぐに経営は軌道に乗りました。

慢性的なドライバー不足の中、人材を確保できた理由

経営では、「どこで何を売るか」というのが非常に大きなポイントになります。彼の経営のこだわりは、「従業員が気持ち良く働けること」です。たとえば、従業員用トイレは掃除を徹底し、ドライバーの仮眠室もベッドのシーツやカバーを毎日取り替えるなど清潔が保たれています。

 

他にも従業員への福利厚生に力を入れており、おかげで慢性的なドライバー不足の世の中でも十分な人材を確保しています。また、「利益のためには商談や交渉に手を抜かない」というのも会社の信条です。特に利益率5%以下の業務については、自社の作業効率を改善する努力を行いつつ、取引先と腹を割った交渉を行っています。

 

会長いわく「お互いの適正な利潤こそが企業繁栄との信念のもと、とことん商談を進める」とのこと。自分だけの利益を追求するのではなく、取引先にも真っ当な利益がもたらされるように配慮することで、お互いが気持ち良く歩み寄れるようになるのです。

 

荷主は配達スピードの迅速さとデリバリーの丁寧さを求めます。また、運送コストは企業にとって重大な課題です。そうした荷主のニーズや立場を理解したうえで、一緒に新しいシステムを提案している点が、この会社が取引先から選ばれる理由だといえるでしょう。

 

この考え方は大澤隆社長や幹部に引き継がれ、新しいマネジメントの工夫がいつも実施されています。

 

「しまむら」のケースは次回ご紹介します。

本連載は、2015年7月30日刊行の書籍『低成長時代を生き抜く中小企業経営9カ条』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

真下 和男

幻冬舎メディアコンサルティング

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