前回は、成長企業の経営ノウハウについて、運送会社の事例を解説しました。今回は、全国的な衣料チェーン「しまむら」の事例を見ていきます。

商品管理にいち早くコンピュータシステムを導入

地方から大きく飛躍した企業を挙げると「しまむら」が代表事例となるでしょう。私が関与したのは、小川町から東松山市に新しいビジネスモデルの展開を図るべく第1号店をオープンした当時から、各地に店舗を展開し、念願の上場を果たすまでです。

 

まさに目覚ましい発展をほんの数人の幹部と共有できました。創業者の島村恒俊さんは、口数は少ないですが、ユニークな発想と実行力と決断力、それに幹部の採用と育成や、マネジメント権限の委譲等にも優れた人物です。

 

そのため、比較的早く次の藤原秀次郎氏にバトンタッチして拡大路線を順調に進んでいったのでしょう。藤原社長が会社を一層発展させ、現在の野中正人社長に引き継がれ、多くの働く女性の雇用者や株主を誕生させたことは、実に喜ばしいことです。

 

マネジメントは商品一品管理に、当時は高価でソフトもまだ充実していないコンピュータシステムの構築を行うなど先見の明がありました。ご苦労もあったかと思いますが、その後の全国展開に大きく寄与したことは間違いありません。これからは他の書物等も参考にしながら、しまむらの優れた点を若干紹介します。

 

しかし、その後の新たな戦略の展開も、従来実験済みの販売ノウハウを活用できたものなので、発展の基礎は5年か10年の短期間でできあがったものであることを再確認しました。

ターゲットを若い女性に絞る「路線変更」で黒字化

しまむらは2001年より前と後で、経営の路線転換を図っています。この時期がその後の飛躍につながる大転機でした。まず2001年以前のしまむらは、地方の小商圏(5000世帯、1万5000人規模)に立地し、その周辺地域に住む40~50代の主婦層をターゲットとして、日常的なおしゃれ着を安価な値段で売るスタイルでした。

 

その基本戦略で好調な業績を上げていたのですが、2001年2月期に7期ぶりの営業減益に陥りました。そこが企業としての成長の壁でした。そこで、しまむらは従来の基本戦略を捨て、新たな戦略に切り換えるという英断を下しました。ターゲットを10~20代の若い女性に移し、扱う商品をトレンドを押さえたファッション性の高い衣料に絞って、なおかつ低価格で提供するという路線です。

 

また、出店の立地も若い女性たちが集まりやすいよう、既存の商業ビルの中(いわゆるビルナカ)や都心の新規出店へと転換していきました。既存店についても大規模改修を行い、よりファッショナブルな雰囲気にしました。しまむらはトレンド路線への転換にあたり、慎重なマーケティングを行っていました。

 

パリやロンドンへの視察を年4回実施し、ファッションの流行を掴んで商品発注に反映させるためです。売れ筋商品をいち早くメーカーや問屋に発注することで、おしゃれ感度の高い若年女性の心を掴もうとしたのです。

 

また、店舗での商品の陳列方法や照明の当て方などをいろいろと変え、〝最も売上が出る商売パターン〟を追究していきました。1つの成功パターンができれば、それを全店舗に導入すればいいだけです。店舗の増加がそのまま利益増に直結するという理想的な経営状態の出来上がりです。

 

おかげでしまむらの店のほとんどは、路線転換後の初年度から期間損益で黒字化し、3~4年という短期で投資回収をほぼ実現しました。

 

実験を経て確実に売上が出るやり方を見つけてから本格導入をしたことで、リスクの高い路線変更を安全にやり遂げることができたのです。

本連載は、2015年7月30日刊行の書籍『低成長時代を生き抜く中小企業経営9カ条』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

真下 和男

幻冬舎メディアコンサルティング

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