前回は、中小企業の実態に合った会計ルールを示した「中小企業会計要領(中小会計要領)」について説明しました。今回は、中小会計要領を導入することで、最も効果が表れやすい「コスト削減」について見ていきます。

毎月の月次決算からコストと収益バランスが明確に

中小会計要領の普及によって多くの中小企業が会計の見直しを行い、経営の改善を果たしています。今回は、具体的な効果の1つとして財務経営力の強化」について見ていきます。

 

財務経営力の強化

中小会計要領を導入することで最も効果が表れやすいのが「コスト削減」です。導入したからといって、次の日からすぐコストが下がるわけではありません。しかし、正しく活用すれば半年、1年が経つ頃には目に見えて効果が表れてきます。

 

中小会計要領では精度の高い会計処理がスピーディーかつ軽負担でできるので、疎かになりがちだった月次決算がきちんと毎月実行できるようになります。

 

会計がよく分かっていなかったり、雑な会計をやっていたりする会社の場合、月次決算から決算書を作る段階で、多くの修正が出てきます。「最後に帳尻さえ合えばいい」と考えているかもしれませんが、それは大間違いです。

 

月次決算が現状を正しく反映していないということは、その会社は「自分の財布や金庫にいくらお金があるのか分からずにお金を使っている」「来月や半年後、1年後など先を見ないで、その場限りのお金の使い方をしている」ことになるのです。

 

中小会計要領を使うと、月次決算がきちんとできるようになり、日頃のお金の動きがよく分かるようになります。すると、1つの事業や案件ごとのお金の動きもチェックできます。コストと収益のバランス(費用対効果)が一目瞭然なので、「この工程を外注に頼らず社内で回せば、外注費が何%下げられる」とか「この材料費を下げたいから、仕入先と価格交渉してみよう」といったことが見えてきます。

 

そうやって一つひとつ細かく原価管理を行っていくと、「塵も積もれば山となる」で会社全体として大きなコストカットが実現できます。

会計意識全社員が持つことで収益拡大が見込める

また、「収益拡大」の効果も期待できます。会計情報を活用することで自社の課題を見出し、克服することで利益率の向上やマーケットの新規開拓、不況に強い体質作りなどが可能になります。

 

決算書はできれば経営者だけでなく、幹部や社員まで全員が読めることが理想です。営業部も開発部も人事も皆が「会計意識」を持つことで、情報を共有している責任感が生まれます。また、日頃の業務の中で「お金の使い方」に関する感度も高くなります。

 

家計でも夫婦の一方だけに完全にお金の管理を任せてしまうと、もう一方は家計に無頓着になるでしょう。実際には余分なお金などないのに「きっと大丈夫」と思って使い込んでしまったり、後になってお金が足りなくなっても、「どこにそんなに使ったんだっけ?」と危機感や反省がなかったり・・・。健全な会計のためには、夫婦で毎月家計簿を見るなどして情報を共有し合い、一緒に管理していく姿勢が大事になってきます。

 

会社のお金もそれとまったく同じです。会社のお金を握っているのは経営者ですが、実際に使うのは現場の従業員たちです。彼ら自身が「自分たちはどんなお金の使い方をするべきか」「お金が一番活きる使い方とは何か」を考えて行動できるよう、経営者は従業員への会計教育をするべきだと思います。

 

従業員への会計教育の際には、会社の経理を見てもらっている公認会計士などの専門家と連携を図ることをお勧めします。専門家であれば正しい知識を伝えることに慣れており、また、最新の情報を持っていることが多いからです。

 

従業員たちが自主的・計画的なお金の使い方ができるようになると、仕事に手ごたえが感じられるようになり、モチベーションが上がってきます。「自分が経営に参加している」という証が数字で確認できるからです。また、月次決算をきちんと行い、その都度、経営の微調整をしていると、自社の会計が常に頭に入ります。すると、とっさに何か動きがあったとき、的確な判断を素早く下すことができます。

 

たとえば、ライバル会社が予想していないタイミングで新しい商品を発表したとします。あなたの会社はそれを受けて何らかの対応をしなければなりません。勝負に打って出るだけの資金力が自社にあるか、勝負に打って出たとして今後の経営に混乱が起きないか、勝負できる商品が短期間で開発できそうかといった様々なことをシミュレーションしなくてはならないのです。自社の経営状況が頭に入っているとシミュレーションがしやすく、判断を下すスピードも速くなります。

 

最終的な経営のジャッジは上司や経営者が行うにせよ、現場の従業員たちもそれぞれのレベルで判断が速くなれば、会社全体としての反応速度が上がります。判断のスピードは速ければ速いほど、ことを有利に運ぶことができるでしょう。

 

なぜなら、市場というのは刻一刻と動いており、その時々で打つべき手が変わってくるからです。早くからタイミングを見計っていれば、自分が狙う波を確実に掴んで乗りこなすことができます。いったん勝負を避けて、別の戦略を立て、態勢を整える時間も稼げます。

本連載は、2015年7月30日刊行の書籍『低成長時代を生き抜く中小企業経営9カ条』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

真下 和男

幻冬舎メディアコンサルティング

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