生まれつき色覚異常がない人でも、加齢によって「色を見分ける力」が低下していくことをご存じでしょうか。色覚異常といっても大半は「色の判別が困難」という軽度な症状ですが、病気によって引き起こされる色覚異常の場合、色の判別がほとんどつかなくなったり、見えるものすべてがモノクロになったりする恐ろしいケースも…。後天的な色覚異常を引き起こす原因には、どのようなものがあるのでしょうか。

80代になればほぼ全員発症する「白内障」も一因

【白内障】

加齢による色覚異常の大きな原因のひとつは水晶体の着色や、瞳孔の縮小などがあります。照明を明るくすることでこうしたリスクはずいぶん解消できますが、それでも改善されない場合は、白内障にまで進行している可能性があります。その場合は白内障の手術治療をする必要があります。

 

この手術は黄色くにごった水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入するものです。実際には水晶体は嚢と核と皮質という内容物にわけられます。にごった核と皮質を取り除くのです。目の手術と聞くと大事に聞こえますが、10分から20分程度の点眼麻酔で終わる比較的危険性の低い手術です(⇒【参考イラスト:白内障手術の流れ】)。

 

最近では遠近両用である多焦点眼内レンズや、乱視に効果を発揮するトーリック眼内レンズなどもあります。昔は眼内レンズは透明でしたが、色視力のところで述べたように20 代がもっともよい色視力をもつことから、その年代の水晶体の色を模した着色眼内レンズが発売されています。このレンズは世界に先がけて私が開発しましたが、現在世界で発売されている眼内レンズのうち、着色レンズは、今や半分以上のシェアを占めています。

 

目の状態に合わせて眼内レンズを選ぶことができますので、医療機関を選ぶ際にはホームページなどをじっくり読んで確認し、受診するようにしましょう。

 

しかし、この手術を行ったからといって、必ずしも20代の頃と同じ色覚を取り戻せるかというとそうではありません。先述したように、加齢による色覚異常は水晶体の黄変だけでなく視神経や網膜の劣化、瞳孔の縮小などの原因が複合的に関わっています。こういった他の原因も同時に起こっていれば、白内障の手術を行ったとしても40代の頃の色覚にしかならないということも考えられるのです。

放置すると、ほとんど色の判別ができなくなる危険性

【網膜疾患、緑内障】

多くの網膜疾患においては、色覚を担う錐体(すいたい)も障害を受け、機能するものの数が減っていきます。

 

錐体細胞はその色素の種類によってL錐体、M錐体、S錐体と区別されていますが、その分布を見てみると、L錐体やM錐体の数に比べ、S錐体の数が少なく、全体のわずか数%しかないことがわかります。そのためS錐体は、網膜障害の初期から影響を受けやすく、結果として、一般的には「黄色」と「青紫」、「青」と「緑」などの識別がしにくいと言われる「青黄色覚異常」が起こってくるのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

もうひとつ、同じような症状の色覚異常を引き起こす疾患として、緑内障があります。

 

緑内障は、主に眼球の内圧が上昇することにより発生しますが、この眼圧が錐体細胞に関わる神経細胞に影響を与えます。神経細胞が大きいほど眼圧の影響を受けやすいのですが、L錐体やM錐体にまつわる神経細胞よりも、S錐体にまつわる神経細胞の方が大きいため特に障害を受けやすく、結果的にS錐体の機能が低下することで青黄色覚異常となると考えられていました。

 

しかし最近、私たちの研究では、中心部においてはL、M錐体も影響を受けており、視力の低下はなくてもL錐体、M錐体の機能も低下していることがわかっています。

 

網膜疾患も緑内障も、初期にはまず青黄色覚異常の症状があらわれてきますが、さらに病状が進行すると、L錐体やM錐体の機能にも影響が及び、条件によって赤と緑の見分けがつきにくい、いわゆる「赤緑色覚異常」の症状も加わってきます。

 

ここが一般的な先天色覚異常とは異なる部分で、青黄色覚異常と赤緑色覚異常が混在するのです。簡単にいうと、全体の色相環が小さくなり、上下に潰れたようになります。そしてさらに病状が進行すると、最終的にはほとんど色の識別ができなくなります。

脳硬塞など…「モノクロの世界」になるケース

【視神経疾患】

眼球から間脳(かんのう)にかけて伸びる神経の束である視神経は、網膜にある神経節細胞につながっています。光の波長は、錐体細胞によって脳への信号に変わった後、いくつかの神経細胞により情報処理され、最終的に神経節細胞で、赤緑と青黄というふたつの反対色の情報に変換されてから、視神経を通じて脳に伝えられることになります。

 

情報の通り道である視神経に疾患があると、赤緑か青黄、もしくはその両方の情報がうまく伝わらず、結果的に赤緑色覚異常や青黄色覚異常といった症状としてあらわれてくることがあります。緑内障を除く視神経病変においては、赤緑色覚異常の割合が多いともいわれていますが、同時に青黄色覚異常も伴うことがやはり先天色覚異常とは異なる特徴となります。

 

【大脳疾患】

脳において色を判断する機能を司っているのが、後頭葉と呼ばれる部位です。

 

この後頭葉の下部に、脳梗塞などの異常が生じることで色覚異常が引き起こされることがあります。具体的な症状としては、他の視覚機能は保たれたまま、見ているものすべてがモノクロになってしまうというようなことが起きてきます。急性の脳硬塞になると、急激に見ている世界がモノクロになっていくといいます。

発達期の女の子に多い「精神的なストレス」による発症

【心因性要因】

精神的なストレスから視力に障害が出て、視覚にも異常が生じることも知られています。小さな子どもに多く起こりますが、成人でもヒステリーなどの精神症状を伴ってあらわれた例があります。

 

こうした心因性の色覚異常は、色覚検査を行った際に典型的な色覚異常の型に分類されず、既存の理論では説明のつかないような結果があらわれることがあります。発達期の女の子に頻度が高いともいわれていますが、先天色覚異常が女性にあらわれる確率は0.2%と極めて低いため、心因性要因が多く考えられます。

 

女性に先天色覚異常があらわれるのは、父親も生まれつきの色覚異常の人であり、かつ母親も同様の色覚異常または正常であるが保因者である組み合わせです。しかし、心因性の色覚異常は、遺伝的な要因とは関係なく後天的に起こるものですから、専門の眼科医を受診し、正確な診断を受けることをお勧めします。

 

後天色覚異常は個人差の大きい病気ですが、病院で検査を受けることで、その原因や自分の症状の度合いなど、さまざまなことがわかります。それが日常生活をトラブルなく過ごすための対策の要ともなります。

 

 

市川 一夫

日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士

 

 

※本連載は市川一夫氏の著書『知られざる色覚異常の真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

知られざる色覚異常の真実 改訂版

知られざる色覚異常の真実 改訂版

市川 一夫

幻冬舎メディアコンサルティング

先天の色覚異常も、加齢による色覚異常も、この一冊で正しい知識と対策法を身につけましょう! 普段私たちが何気なく見ている「色」ですが、実は人によってとらえ方が違います。なかには、生まれつき特定の色を判別しづらい…

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