色覚異常と聞くと、多くの人は「色の見分けがまったくつかない」という症状をイメージしがちです。しかし実際には「色の判別が苦手」という軽度な人が大半で、それゆえに本人も親さえも色覚異常に気付かないケースが珍しくありません。しかし日常生活では気づかない程度の色誤認が、就労するうえで大きな障壁となることがあるのです。自分やわが子に色覚異常が疑われるとき、どのような検査をすればよいのでしょうか?

「人権を守るため」に廃止された色覚検査だったが…

色覚異常は、まず自覚することが大切です。学校での色覚検査が事実上廃止された背景には、色覚異常の人に対する誤解に基づいた、過剰ともいえる社会的差別がありました。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

おもに、進学や職業への制限です。その歴史を見ていくと、色覚異常の職業的な規制は、鉄道・海上を安全運行するために19世紀のヨーロッパではじまりました。その簡単な年表を、図表1で紹介します。

 

[図表1]先天色覚異常に対する職業制限の年表

 

第一次大戦後は、航空機の発達から空港灯火、表示灯の視認に関して色覚異常の規制がはじまりました。現在は、国際民間航空機関が操縦士の色覚の基準を定めています。実施の裁量権は各国に任されていますが、日本を含め多くの国が規制しています。

 

日本での職業規制については、1966年に主要企業1117社の調査が行われています。それによると制限は技術系で厳しく、サービス業・不動産業以外の業種50%以上で制限がありました。

 

制限の理由は、実際に支障があったからではなく、支障が予測されるというものが多くありました。具体的には、製品の色分け、印刷、繊維製品の選別、交通などが一律に制限されていました。

 

近年では、各種の障害者にもなるべく門戸を広げる風潮となり、色覚異常も入学制限から外され、職業制限も見直されました。現在では、色覚異常による職業の制限は特に鉄道、航空、船舶や警察官などに限られるようになりました(⇒【画像:色覚による職業制限/色覚異常の場合不利になる職種)。

 

1993年、当時の文部省は進学時調査書から色覚の項目を削除しました。また、2001年には厚生労働省が雇い入れ時の健康診断における色覚検査義務を廃止し、就職時の制限を行わないように指導しました。

 

遺伝病である先天色覚異常であることで、進学や就職の際に不利を被ることが差別にあたるなどの批判が原因でした。

 

さらに2003年から、小学校で行われていた健康診断時の色覚検査の義務も廃止されました。先天色覚異常は自ら自覚することがないため、検査をしない限り自覚することはありません。結果的に、1993年生まれ以降の多くの方は、色覚異常の有無を生涯調べられることはなくなってしまいました。

「自覚なき色覚異常」のせいで不平等に直面

このようにして、色覚異常を自覚する人が減ったために、実際に就職後に日常業務または色覚検査を必要とする資格試験の中で問題が起こり、病院を受診する患者が増えてきたのです。

 

しかも色覚異常であると自覚できないと、「自分がおかしいのではないか」という不安を抱きながら、まわりにあわせて生活するという苦労がつきまといます。まわりの人の理解も得られず、適切な対策も知らないまま、自分ひとりで苦しみ続けなければなりません。

 

平等の名のもとに廃止された色覚検査ですが、世の中の色は正常者によって決められているため、無自覚のうちに正常な色覚に合わせなければならないという苦労をしなければなりません。結果として色覚異常の人が自覚する機会を失い、対策をとったり理解するチャンスを奪われているのです。表面化しないからこそ根深い不平等を起こしてしまっているのです。

 

このような問題を改善するため、2016年度から小学校での色覚検査が復活し、今後はまた早い段階で色覚異常の有無を知ることができるようになりました。

 

検査をしていた時代の、先天色覚異常の子どもを持つ保護者へのアンケートでは、半数以上が、小学校で検査を受けるまでわが子の色誤認にまったく気づかなかったという結果も出ています。

 

色覚異常であるという現実を知らなければ、色覚異常によって直面する大きな不利益やリスクを認識することすらできません。しかし、異常を自覚して対策を行えば、多くの場合問題なく日常生活を送ることができるのです。ただし今回の色覚検査の復活も義務ではないことから、検査もれが起きてしまう可能性もあります。そのため、保護者の方は色覚異常を正しく理解し、わが子に色覚検査をすすんで受けさせる姿勢が求められます。

 

もし自分やわが子に色覚異常の疑いがあったり、遺伝的に考えてその可能性があったりしたなら、悩んだり隠したりするのではなく検査を受けてみるのが大切です。

 

一番大切なのは、自分の状態を自覚することです。自覚しなければ、自分が不利な状況におかれたり、リスクにさらされても、それを知ることすらできないのです。

色覚異常を見つける4つの検査

色覚に関しての通常の検査と指導を受けるには、眼科専門医がいる病院・クリニックの方が検査機器と知識をもっているところが多いので、おすすめです。検査にはさまざまな種類がありますが、おおまかに次の4つの方法が採用されることが多くあります。

 

【①色覚検査表を用いた検査】

健康診断などで頻繁に使われるのが、検査表を使った検査であり、医学的には「仮性同色表(かせいどうしょくひょう)」と呼んでいます。色覚検査表は、色覚異常であるとわかりにくい色の組み合わせを使って作られ、主に書いてある数字を読み取ります。その原理を簡単に説明するなら、たとえば緑と赤がわかりにくい色覚異常を検出するのに、背景を緑、読み取る数字を赤で書けば、ふたつの色の違いがはっきりわからないと数字が読めません。

 

色覚検査表はすべてこの原理に基づき、いろいろな色を組み合わせ、いろいろな数字を書いた表が何枚か組になって構成されています。代表的な色覚検査表は、次のようなものです。

 

●石原色覚検査表(図表2)

検査表として最も有名であり、世界的に広く使われています。その理由は、正常か異常かという区別が、効率よく簡単にはっきりするからです。

 

図表2がすべてすんなり読めるなら、まず色覚異常の疑いはないはずです。反対に、読めなかったり、かなり苦労しないと読めなかったりしたなら、色覚異常の可能性は高いといえますから、精密検査が必要です。

 

[図表2]石原Ⓡ色覚検査表

 

●標準色覚検査表(SPP)

図表3は、後述する「パネルD-15検査」に使われている色を使って作られた表であり、その精度は石原表に匹敵するほどよいといわれています。特に優れているのは、1型色覚と2型色覚を区別することができる点にあります。そのため、1型と2型の判定に用いられることが多く、典型的な応答をした場合に限れば90~95%という信頼性を誇ります。

 

もとは先天色覚異常の人を対象に作られたのですが、後に後天色覚異常用の「第二部」、スクリーニング検査用の「第三部」が発行され、先天色覚異常検出用の検査表は「第一部」と呼ばれるようになりました。

 

先天色覚異常を見つける第1部と、後天色覚異常を見つける第2部、第1と第2の検出率の高い表を抽出して両方を検査することのできる第3部(検診用)があります。
[図表3]標準色覚検査表(SPP) 先天色覚異常を見つける第1部と、後天色覚異常を見つける第2部、第1と第2の検出率の高い表を抽出して両方を検査することのできる第3部(検診用)があります。

 

●東京医大表(TMC表)

名前にもあらわれている通り、東京医科大学のグループにより作られました(図表4)。色の組み合わせを使い、数字を読み取るのは石原式と同じですが、この表の特徴は印刷ではなく色紙を貼って作ってあるというところにあります。

 

色というのは、紙に印刷する工程を経ると、微妙に明度や彩度が違っていたり、色相が変わっていたりすることがあり、印刷物すべてを同じ色にすることは難しいものです。ですから印刷物の場合、版ごとに少しずつ違った出来上がりになってしまいます。一方でTMC表は色紙ですから、意図した通りの色を使うことができ、しかも同じ色紙を使って作ったシリーズはまったく同じものに仕上がります。

 

実物は色紙でつくってあるため、印刷によって色が微妙に変化するという心配がありません。
[図表4]東京医大表(TMC表) 実物は色紙でつくってあるため、印刷によって色が微妙に変化するという心配がありません。

 

これらの表の他にもいくつかの検査表が存在しますが、いまのところここに挙げた3つよりも効果の高いものがないため、一般的な検査ではこれらの表を複合的に用い、総合的に判定することになります。ただし、検査表を使ってできる検査はあくまで簡易なものでしかなく、色覚異常の細かな区別やその程度までを正確に検出するためには、やはり精密検査が必要になります。

 

【②色相配列検査】

主に色覚異常が強度かどうかを判断するために用いられる検査です。色の違う色相を似ている色の順に円形に並べたものを色相環といい、赤、橙、黄橙、黄、黄緑、緑、青緑、緑青、青、青紫、紫、赤紫、と少しずつ色が変わってまたもとの赤になります。

 

検査では、この色相環に沿って、少しずつ色の違った駒を順番に並べていきます。色の違いがはっきりわからなければ、当然正しい順番に並べることはできませんから、間違えるほど色覚異常が強いことになります。

 

よく行われる検査は「パネルD-15」という検査です。これは、基準となるひとつの色を固定した上で、その次から残りの15色を順番に並べます。色覚異常であっても、その程度が軽ければ正しく並べることができるので異常3色覚を選び出す検査として用いられています。

 

また色覚異常の程度が強いと、正常とは異なる並べ方になるのですが、その場合、1型色覚と2型色覚とで並べ方の特徴が違うため、それにより分類もまた可能となります。

 

【③ランタン・テスト】

もともと鉄道の信号灯の区別ができるかどうかを調べる検査として作られました。信号灯のような小さい色の光を見せ、その色の名前を答えます。色覚異常の人にとってこの検査は難易度が高く、かなり程度が軽い人しかパスしないため比較的軽い異常3色覚などの色覚異常をさらに細かく分類する方法として用いられます。

 

この方法は、色の名前を答えていくため、ほかの検査とは違い、「どの色をどのように認識しているのか」がはっきりわかります。この検査では、9問中3問までは間違えても問題ないことになっていますが、実際には色覚異常者の98%が、1問は間違えると報告されています。

 

【④アノマロスコープ】

健康診断の際などに使われる色覚検査表のみでは、色覚異常があるらしいことは判断できても、医学的にはっきりと診断を確定させるところまではできません。それを確定するために使われるのが、アノマロスコープという特殊な検査機器です。この検査機器は高価なうえ、検査技術に経験・技術が必要なこともあり、この検査を実施できる施設は限られています。

 

 

市川 一夫

日本眼科学会認定専門医・認定指導医、医学博士

 

 

※本連載は市川一夫氏の著書『知られざる色覚異常の真実』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

知られざる色覚異常の真実 改訂版

知られざる色覚異常の真実 改訂版

市川 一夫

幻冬舎メディアコンサルティング

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