銀行が「成年後見制度」をすすめる本当の理由
認知症と聞いただけで短絡的に口座を凍結、「解約したければ成年後見の申し立てを」という銀行もあれば、わざわざ意思確認のために本人に会いに行く銀行もある。
どうしてこんなに対応に差が出てくるのでしょう。大手都銀の支店長はかつて筆者の取材に次のように答えました。
「家族がうるさいんですよ。こちらからは家族に紛争があるかどうかなんてわかりません。でも、銀行が善意に判断して定期預金を解約した時に、後から他の家族の方が『認知症なのになぜ引き出しに応じた?』と怒って当行を訴えれば、善良な管理者の注意義務違反に問われて賠償金請求をされる恐れがあります。
そんな“とばっちり”を避けるために、せっかく公的後見制度があるのだから、お客さん自身のご判断で成年後見を申し立てていただくようにしております」
支店長レベルではこういう“刷り込み”があっても不思議ではありません。「お客さまファースト」からはほど遠い姿勢。銀行は守れても、お客さまに多大な負担をかけてしまう。
しかしそのことについては、行内議論がほとんどされていない。この銀行は庶民の悩みを想像する力が欠けているから、この問題に“心が痛む”という感情がわいてこないのでしょう。
銀行に「家族が認知症になった」とは言ってはいけない
ちなみに、銀行を監督する金融庁は、銀行のこのような対応をどう考えているのでしょう。まさか、「おお、法令順守の良い銀行だ」などとこの姿勢を推奨していないでしょうね。
これも取材しました。「認知症のお客さまに対して、これこれこのような対応をしなさい、というような指示や通達のたぐい、出していませんか?」という質問に、「一切出していません」と銀行担当の課長は即答しました。
そうですよね、「認知症と聞いたら即凍結」では先ほど示した第一生命経済研究所の高齢者の凍結資産214兆円という“金融の動脈硬化”を金融庁自らが後押しするようなものですから。
家族はあきらめずに本人の意思を銀行に伝え、疑念があるなら「家に来て、本人の意思を確認してください」と言うべきです。
ただし、銀行に「本人が認知症」という予見を与えることは得策ではありません。多くの銀行は「認知症」と聞いた途端、凍ります(表情の凍結)。こういう銀行には、認知症の「に」の字も言ってはなりません。
考えてみれば、病気のことは究極の個人情報ですよ。ご近所の話題に、認知症のことが平気で語られますが、もっと用心すべきです。銀行では、脇を締め甘い顔を見せずに、「意思能力はある」の1点で攻め、こちらの土俵に導きましょう。
本人にまだ「意思能力」があれば、銀行に主張すべき
ひとたび認知症の問題を抱えた家族は、いろいろな意味で戦わなければならなくなります。対銀行もそのひとつ。金融機関はどこも手ごわいです。知識があり頭の回転が速く、規律があります。上からの指示は絶対で、それに逆らうことはまずありません。こういう人たちを相手にするのは“説得の技術”があっても、かなり骨が折れます。
しかし、本人に意思能力があるなら、百のへ理屈も跳ね返せます。所有権は絶対的な権利ですから、本人に意思能力が残存していれば、その意思に従うことが金融機関の義務となります。
繰り返して言います。「本人に意思能力が残存していれば」です。誰が見ても「これは無理」というしか言いようのない常況なら、戦っても無駄です。ですから家族は、そこを見極めてください。
間に合う可能性がありそうなら、時機を逃さず行動してください。そうすれば「預貯金口座の開設や解約、取引」について、家族は「×」ではなく、少なくとも「△」になります。銀行に預けたお金を凍結から救えるか否かは、今後の高齢者の生活の質においても天と地ほどの差がつく重大事です。
石川 秀樹
静岡県家族信託協会 行政書士
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