「認知症なら即引き出しアウト」の銀行の対応は短絡的
凍結されたお金は、公的後見人しか何とかできないのでしょうか?
「本人が認知症=出金ストップ」という対応をする銀行は少なくありません。しかしこの対応、次のような試算を目にすると「ちょっと違うよ」と、筆者は感じます。試算というのは第一生命経済研究所が2018年に発表したものです。
日本の金融資産の高齢化はすでに進んでいます。2014年の時点で金融資産の65%を60歳以上の人が保有。厚労省の「高齢社会白書」は、2030年には認知症高齢者が830万人に達すると推計しています。
どんどん認知症高齢者は増えていくわけですが、問題はこれらの人々が持つ金融資産の額です。2017年に143兆円だったものが、2030年には215兆円にまで膨らむ。つまり215兆円もが動かせないお金になる――という試算です。
日本の国家予算は一般会計約100兆円。実にその2倍強が凍結されて金融市場に回らない。お金は血液によくたとえられますが、日本の家計金融資産の10%強が資産凍結という動脈硬化のおかげで滞ってしまうというお話です。
「認知症なら即引き出しアウト」という銀行の対応は極めて短絡的、まわり回って自分の首を絞めているようなものです。
すべての銀行が「認知症=即凍結」というわけではない
それに実際の話、認知症の症状は多様であって、「認知症=即凍結」という判断は銀行の過剰反応、というより“暴走”でしょう!
例えばあなたが病院で、「認知症」と診断されたとします。でもそのときあなたは、いわゆる事理弁識能力を著しく欠き、自分が誰かも分からないような状態なのでしょうか? (確率的にはいきなりそんな状態になる可能性はかなり低い)
その時、病院に付き添ってきたお子さんが「今後の治療や療養費のために定期預金は解約しておこうよ」と話しかけたら、あなたは「そうだね」と返しませんか? 返したとすれば、あなたには意思(能力)があります。
こんなことを書くわけは、認知症に対する対応は銀行によって異なるからです。少数ではありますが、こんな金融機関もあります。
静岡市の信用金庫です。高齢者やその家族から「定期預金を解約したい」との申し入れを受けるとその信金は、「本人の意思」を確認するために担当者が役席者を連れて本人の自宅を訪ね、「この預金をあなたは解約したいですか?」と尋ねます。本人がうなずけば「これが本人の意思」と認め、解約に応じます。
こちらの職員は毎月筆者の事務所を訪ねてきます。ある日「定期預金」を頼まれました。「君らはいつも高齢者をそうやって誘うのだろうが、お客さまが認知症になれば動かせないお金になっちまうぜ。高齢社会に逆行してないかい?」
筆者の言葉に職員さんは頭をかきながら、「そうなんです。だから私は…」と言って先の対応を話してくれたのです。「こちらの支店に移ってから1年半ですが、8件くらいこういう対応をさせてもらいました」。
なるほど。この銀行は地域の銀行らしい役割を果たしているな、と感じました。これからの時代は、銀行も選ぶ必要があるみたいですね。
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