認知症になる高齢者の数が増加しており、判断能力があるうちに「相続財産」について対策をしておくことが大切です。そこで候補として挙げられるのが「遺言」と「家族信託」。今回は、両者の違いと、相続発生時にどちらが優先されるのかについて解説します。※本連載は、石川秀樹氏の著書『認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託』(ミーツ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

意外と知らない「遺言」の承継機能の脆弱性

家族で話し合って生前対策をしておくことが大切(※写真はイメージです/PIXTA)
家族で話し合って生前対策をしておくことが大切(※写真はイメージです/PIXTA)

 

認知症対策の「居宅売却信託」に次いで、近ごろニーズが高いと感じられるのは「遺言代用信託」です。

 

皆さんお気づきではないようですが、遺言の承継機能は案外、弱いんです。弱さの一因は、遺言自体の脆弱(ぜいじゃく)性です。さらに、人生100年時代で遺言者が今まででは考えられないくらいの高齢になるために起こる“弱さ”もあります。遺言は「書いたからもう安心」と言えるほど堅固なものではないのです。

 

▽遺言の脆弱性
① 遺言者自身が、いつでも書き換えられる。
② 第三者による書き換えの恐れ。
③ 相続人全員が一致すれば、遺言を無視できる。

 

①について、遺言が書き換え自由であることは、遺言者が元気なうちは「利点」であっても、「弱点」ではありません。しかし高齢になれば人間の意思・判断能力は衰えます。80歳までは元気だった人も、それ以降の人生は山あり谷あり。人間コンピュータも“経年劣化”を免れません。

 

そうなったときの最大の問題は、「近づいて来る者に対して弱くなる」という人間の性質です。古くは「リア王」のたとえ話。長年の末娘の献身に目もくれず、にわかに近づいてきた者の甘い言葉に惑わされ、自ら滅びの道を選択します。現在は、親と同居する人さえまれですから、最後に近づいた者勝ち。70代で書き残した立派な遺言を、そそのかされるままに公正証書で書き換えてしまう、という“事件”が後を絶ちません。

 

②について、これは言わずもがな。自筆の遺言を黙って書けば、探されて隠される、破棄される。家族に「遺言した」と言っておけば、今度は誰かが書き換える。そんなことが起きる確率は低いでしょう。すればその者は相続欠格となり、すべてを失いますから。でも、確率はゼロではないかもしれません。

 

③については、案外知られていませんね。でも、遺言はゼッタイ的に相続人に対して強いわけではありません。故人の遺志ですから、民法はさぞや遺言者の遺志を尊重するのだろうと思いましたが、判例は「相続人が全員一致すれば遺言通りにしなくてもいい」。これは相続人の“謀反”みたいなもので、遺言者としては悔しいでしょう。

「成年後見人」が遺言を無視し、財産を処分することも

①は本当に深刻。これからますます不幸な事例が出てくると思われます。遺言を、遺言者の意思を実現するための唯一の手段と考えると、〈書き換え自由。しかも後の遺言が有効になる〉という遺言の性質はいかんともしがたく、防ぎようがありません。

 

後からの遺言が公正証書で作られると、公証人と2人の証人の計3人の目を通っているわけですから、これを「本人の判断力なし、無効」とするのはなかなか難しそうです。

 

これに関連して、さらなる遺言の驚くべき弱点が、最近になって分かってきました。それはこれです――

 

④ 成年後見人に、遺言者が元気だったころに書いた遺言が無視されて、遺言で指定した財産が処分される

 

これは困った“事件”ですね。もらえるはずだった人にはショックでしょう。しかし、「やむを得ない」と家庭裁判所が判断すると、受遺予定者の権利は守られません。

 

①~④までは、まれな事例と言えるかもしれません。順に説明したので、もっとも肝心な事例が後回しになってしまいました。

 

⑤ 遺言は本人が亡くならなければ効力を発揮しない

 

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認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託

認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託

石川 秀樹

ミーツ出版

認知症による預金凍結を防ぐ。名義を移してお金“救出”信託こそが庶民の知恵。カラーイラスト、読みやすい文章、豊富な信託事例。 第1部 認知症と戦うー財産凍結の時代が来た!成年後見より家族信託を使え 第2部 受益権…

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