「アジア・シリコンバレー計画」で台湾が激変する
「・」で連結することによって起こるイノベーション
「圏論」という、とくに私が興味を持っている数学の理論があります。これは、一見違うように見えても同じように相互作用しているものについての学問です。「あるものの相互作用の仕方を、他の相互作用の仕方に自然と変換するにはどうしたらいいのか」を考えるのが、「圏論」の特徴です。
たとえば、「社会的企業」という名称は、これまで「社会的」が形容詞であり、「企業」は「社会」という単語によって修飾される名詞であると考えられてきました。しかし、「その考え方は違う」と主張する人たちがいます。「社会的企業とは、社会問題を解決することが本来の姿であり、社会こそが主体なのだ」という論理です。
そこで私は、社会と企業の間に「・」を入れて「社会・企業」という名称を考えました。この「・」は、「社会は社会に帰属し、企業は企業に帰属する」という意味で加えたものです。今、私たちが行っている仕事は、まさにこの中間点が表す「連結(・)」です。社会が企業とつながるこの「・」こそが、イノベーションであるというわけです。
イノベーションが起こった後の社会は、イノベーションを通じて企業が発明した新しい製品やシステムとリンクされます。こうした力を私たちは社会のために応用でき、企業もまたイノベーションを通じて、新しい社会的価値を見つけることができるのです。
企業も社会に貢献しています。そう考えると、「社会と企業のどちらが主体なのか」ということではなく、両者は真ん中の「・」によって結合されたものであるということになります。さらに、この連結は環境やガバナンスや様々な価値ともつながり、最終的にはひし形になります。たとえどんなイノベーションであっても、帰結するところは同じです。
この方法は、台湾政府が推進する「亜洲・谷計画(アジア・シリコンバレー計画)」の真ん中に「・」をつけたのと同じことです。台湾のシリコンバレー計画は桃園を拠点とし、台湾全土を対象としています。三年半前に計画をスタートさせ、とくにシリコンバレーをはじめとした世界の企業(グーグルやマイクロソフト、アマゾン)が台湾を「市場」にするだけでなく、研究開発の場としてくれることを目指したものです。
それがこの三年半の間にかなり良い成果を生んでいます。たとえば、グーグルのアジア最大の研究開発総本部は台湾にあり、世界の大企業の中には百人以上のスタッフを抱えた研究開発チームを置いているところもあります。
これは太平洋に埋設された光ファイバーケーブルが台湾に直結し、香港にはつながっていないことも功を奏したのかもしれません。このため、「台湾がイノベーションの源泉になる」と言ってくれた人もいます。