こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「プロジェクト・グーテンベルク」運動に参加

すべての始まりとなった「プロジェクト・グーテンベルク」との出合い

 

1993年、12歳のとき、私はインターネットと出会いました。そのきっかけは当時、台湾大学にいた劉燈という友人です。大学には学術用のネットがあって、彼がアカウントを貸してくれたのです。だから私は、自宅からモデム(コンピュータが他のコンピュータと通信できるようにする装置)を接続するだけでネットを使うことができました。モデムは父が買ってくれたもので、モジュラーに差し込んでおけば電話回線を介して他のパソコンと通信することができました。

 

この台湾大学の学術ネットワークを通じて、私は世界的な古典の電子化公開運動に関与することになりました。これが「プロジェクト・グーテンベルク」との出合いです。これは、著者の死後一定期間が経過して著作権の切れた名作などを全文電子化して、インターネット上で公開するというプロジェクトです。

 

当時、私が学校で読んでいた本はすべて、外国書籍の翻訳版でした。私はこれらの原書を読んでみたいと思っていましたが、必ず入手できるわけではありません。そんなとき、ネットで「プロジェクト・グーテンベルク」が始まっていることを知ったのです。その中には無料でダウンロードできる作品も多かったので、それらの作品を電子書籍として読むようになりました。そのうちに私自身も「プロジェクト・グーテンベルク」運動に参加するようになったのです。

 

3つの幼稚園、6つの小学校、14歳で中学校を中退。ネットで自主学習を始めたという。
3つの幼稚園、6つの小学校、14歳で中学校を中退。ネットで自主学習を始めたという。

参加するためには、様々な方法があります。たとえば、「どの作品のどこに誤字脱字がありましたよ」と伝えるためのメールを書くのもプロジェクトに対する一つの貢献ですし、このプロジェクトの存在を宣伝することも、同じく一つの貢献です。もちろん、もともとの作品を一文字ずつ入力してデータ化していくことも大切な貢献なのですが、当時の私の英語力は作品データを打ち込む作業ができるほどのレベルではありませんでした。

 

では、私が「プロジェクト・グーテンベルク」で具体的にどんな貢献をしたかといえば、中国語における繁体字(台湾や香港で使われている正字体)と簡体字(中国大陸で使われている略字体)を相互に自動変換できるようにしたことです。

 

当時、多くのネット上のコンテンツでは、中国語コンテンツであっても、必ずしも繁体字版と簡体字版の両方が提供されていたわけではありませんでした。そこで私は、もともとのコンテンツが簡体字版であれば自動的に繁体字版に変換されるような、またその逆も可能なプログラムを書いたのです。これが「プロジェクト・グーテンベルク」における私の代表的な貢献です。

 

この私自身が作った「Han convert」というプログラムは、その後も多くの人々の手によって、より使い勝手が良くなるような改変作業が進められています。その後、「Open CC」という別の漢字変換プロジェクトも生まれました。実際には「Open CC」のほうが「Han convert」よりもずっと進化していったので、私自身の興味も他の方向に移っていきました。現在では私を含む多くの人が「Open CC」を使っています。

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