AIは人間社会をよりよくするために使うもの
人間社会を良くする「補助的知能」としてAIを活用する
ハッカソンという取り組みは、台湾以外の国々との間でも行っています。
たとえば、私たちは2020年の5月5日から18日にかけて「米台防疫ハッカソン(Cohack)」を行いました。7つの国(台湾、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、カナダ、ハンガリー)から参加したチームが、それぞれ「新型コロナウイルスに直面した場合に、AIという方法を用いて、どのように対応すれば社会に受け入れられるか」をテーマに議論しました。
まず参加者たちには、ある程度の時間をかけて討論を行ってもらいました。その結果、アメリカの参加者が「先着順で急患を扱うべきではない」という意見を出しました。急患で患者が訪れたら、まず患者の個人情報を把握し、この患者が社会に対してどれくらいの貢献の可能性が残されているかをAIで計算するというのです。
そして、あまり残されていなければ(一般的に言えば高齢者ということになるかもしれません)そうした患者の治療は後まわしにする。もし社会への貢献が多く残されているならば(きっと若くて健康な人でしょう)優先的に治療するというのです。こうした意見は、一見合理的に聞こえますが、台湾の社会では受け入れられないでしょうし、実際にこうしたやり方は違法です。
この問題の焦点は、このアイデアを提供した参加者が「AIを用いて何をしたいか」というテーマを超えて、社会全体をある方向に導くべきであると考えているところにあります。こうしたケースでは、社会が貢献の残り度合いで患者を選別するような方向に導かれることを人々が望まなければ、仮にこの研究そのものが非常に実りあるものであったとしても、実際に試されることはありません。
逆に言えば、「米台防疫ハッカソン」で最終的に選ばれた上位5チームが作り出した成果は、世界のどこででも応用できるアイデアでした。
ご存知のようにAIは「Artificial Intelligence」の略で「人工知能」と呼ばれますが、私はむしろ「Assistive Intelligence」つまり「補助的知能」と捉えたほうがいいのではないかと考えています。AIは人間の選別に使われるようなものでは決してなく、あくまでもソーシャル・イノベーションを進め、人間社会をより良くするために使われるものでなくてはならないということです。