こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「持続可能性」を実現するために何が必要か

三つのキーワード「持続可能な発展」「イノベーション」「インクルージョン」

 

これから世界を開くカギになるのは「AI」「5G」「クラウド」「ビッグデータ」などの技術ではありません。すべては「持続可能性」を実現するために何が必要なのかという視点から見ていくべきでしょう。

 

台湾の現在の教育の基礎となっている「自発性」「相互理解」「共好(共同作業)」といったものも、持続可能性を実現するためのキーワードです。

 

今後の企業の課題ともいわれるDX(Digital Transformation)についても、最も重要なのは「持続可能な発展」であり、誰も置き去りにしない「インクルージョン」という姿勢です。私たちの世代で運用された技術によって次世代の環境が破壊されてしまっては意味がないのです。「地球にはもう住めないので、早く火星に移住しなくちゃ」というようなことを本気で提唱する人はいないでしょう。

 

オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)
オードリー・タン 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)

 

また、私は台湾においてとくに「イノベーション」を重視しています。イノベーションも、これからの世界のキーワードの一つになると思います。イノベーションとは、新しい技術によって既存の社会構造を進化させるだけではありません。私たちの社会が持つ異なる可能性に想像を働かせることを後押ししてくれるものです。それゆえ、イノベーションもまた非常に重要なものであると考えています。

 

ただ、台湾でイノベーションを進める場合、私が常に言い続けていることは、「わずかな部分あるいは少人数のためのイノベーションによって、弱者を犠牲にしてはならない」ということです。むしろ、「イノベーションとは、より弱い存在の人たちに優先して提供されるべき」ものであり、それこそが誰も置き去りにしない「インクルージョン」です。私たちの社会には、多種多様な人たちが生きていることを忘れてはいけません。

 

たとえば、台北駅のコンコースの床には、たくさんのスマイル(笑顔)のイラストが描かれ、たくさんの言語が書かれています。これは「床に座り込むのはけしからん」などと思わせないような配慮です。台北駅のコンコースは、誰が座り込んでも許される場所です。どんな言葉を話す人でも、自由に利用して良い場所です。

 

このような配慮がなされた背景には、言葉が通じないことによって起こる他国の人たちとのトラブルがありました。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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