こんな人材が日本にも欲しかった。オードリー・タン。2020年に全世界を襲った新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾。その中心的な役割を担い、世界のメディアがいま、最も注目するデジタルテクノロジー界の異才が、コロナ対策成功の秘密、デジタルと民主主義、デジタルと教育、AIとイノベーション、そして日本へのメッセージを語る。本連載はオードリー・タン著『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)の一部を抜粋し、再編集したものです。

政治家を目指してきたわけではないIT大臣

私の家族、そして日本との関わり

 

私は現在、台湾の行政院において、「デジタル担当政務委員」という職責を担っています。私は別に政治家を目指してきたわけではありません。ただ、以前から公共の仕事に興味があったので、その実現のためにこれまでプログラマーとして培ってきた自分の経験を、政府の仕事に活かしていくことも面白いのではないかと考えたのです。

 

では、どうして私が公共の仕事に関心を持つようになったのか。その答えはおそらく私自身のこれまでの生き方にあるのかもしれません。そこで、私が現在関わっている仕事について述べる前に、これまで自分自身が歩んできた道について少しお伝えしておきたいと思います。

 

オードリー・タン氏はこれまで何度もに日本を訪れているという。
オードリー・タン氏はこれまで何度もに日本を訪れているという。

まず家族の話からです。私の父方の祖母は、台湾中部の鹿港(ルーガン)出身で、日本統治時代(1895〜1945年)の教育を受けました。そのため、当時は日本名を名乗り、今でも日本語を話すことができます。一方、父方の祖父は中国の四川省の隆昌(りゅうしょう)出身で、日本統治時代が終わった後に国民党軍とともに台湾に移ってきました。彼は祖母とは別の意味で日本人と関わりを持ちました。それは抗日戦争(1937〜1945年)の記憶です。

 

祖父は、主にレーダーを扱う軍曹として長い間空軍にいました。英語を学ぶのが早かったので、若くてもレーダー機器を操作することができたのだそうです。その後も偵察の任務に就いて、1958年の823砲戦(現在台湾が実効支配する福建省の金門島で勃発した国民党軍と共産党軍の戦闘)のときには、防衛任務に就いていたと聞きました。

 

一方、祖母の家は、台湾の鹿港で文開書院という私塾のようなものを経営していました。この文開書院の建物は現存していて、現在は県指定の旧蹟になっています。一方、祖父は四川の農家出身なので、二人の日本に対する感情はまったく異なると考えるべきでしょう。会話をするにしても、祖母は日本語か台湾語、祖父は中国語しかできなかったはずですが、お互い漢字を読めるので、恋文のやり取りのほうがコミュニケーションはとれていただろうと思います。

 

本来であれば、大陸と台湾という離れた場所で生まれ育った二人の人生が交錯することはなかったはずですが、歴史の大きなうねりの中で、奇しくも台湾で出会い、共に暮らすことになったわけです。祖父は口数の少ない人でしたが、よく詩を書いていました。その詩を読むと、彼が四川にいる家族に思いを馳せていることがよくわかります。

 

私の記憶にある限り、祖父母はとても仲が良く、二人とも敬虔なカトリック信者でした。共通の信仰を持っていることが二人を結びつけた理由の一つかもしれません。

 

現在、私の家族は全員、台北の北部に位置する淡水の新しく開発されたエリアに住んでいます。私の生家は老梅(ラオメイ)にある、いわゆる「外省人村」(戦後、中国大陸から台湾へ移り住んだ人々が集まって暮らした集落)ですが、そこが取り壊しになったので「淡海新市鎮」と呼ばれるエリアに移ったのです。以前は非常に交通が不便な場所でしたが、今はライトレールも開通してだんだんアクセスが良くなっています。

 

私は2週間に1度、淡水の実家に帰るようにしていますが、仕事などで行くことができない場合はテレビ電話で家族と話します。父方の祖父はすでに亡くなりましたが、祖母はまだ元気です。母方の祖母は元気ですが、祖父は最近亡くなりました。しかしながら、長寿で100歳を越していました。

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オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る

オードリー・タン

プレジデント社

2020年に全世界を襲った新型コロナウイルス(COVID‐19)の封じ込めに、成功した台湾。その中心的な役割を担い、2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。…

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