シリコンバレーとアジアをつなぐ役割を台湾が担う
台湾には言論の自由がありますが、中国ではグレート・ファイアーウォール(中国本土のインターネットに存在する情報検閲システムと関連する行政機関のこと)によってイノベーションの空間がどんどん狭くなっているからです。香港出身の友人で、台湾に残ってイノベーションを続けている人もいますし、私のオフィスにも、もともと上海で働いていたというスタッフが何人かいます。
それはさておき、この計画はシリコンバレーのものまねをアジアに導入しようとするものではなく、シリコンバレーをアジアに移転させたいわけでもありません。要は、「シリコンバレーとアジアをつなぐ役割を台湾が担いたい」というものです。「シリコンバレーの問題を解決できる人材であれば、アジアの社会問題を解決できるだろう」という期待を込めているのです。
逆から見れば、シリコンバレーで起きた問題をアジアで解決することも可能です。ですから、この場合でもどちらが修飾語という問題ではなく、相互にリンクしていることになります。アジアとシリコンバレーの連結と、社会と企業の連結は、実際にはまったく関係ないものかもしれません。しかし「・」を用いることで、それぞれが形容詞と名詞の関係から名詞と名詞の関係になり、さらにイノベーションによって連結されたこれらの関係は、同等レベルのものへと転換されるのです。
これが「圏論」という学問で、一見まったく関係のないようなテーマを同じように扱うことで、同じように良い結果を得ることを考えるのです。
インクルージョンや寛容の精神は、イノベーションの基礎になる
性質が完全に異なるといえば、化学における反応は物理における基礎で、化学における分子式もまた物理の法則に基づいています。仮に物理と化学がまったく関係ないのであれば、物理の法則を化学者が使うことはできず、化学者の発明したものを物理学者が研究すべきではないということになってしまいます。
しかし、理論物理学は実験物理学から派生したものであり、実験物理学は化学的な方式を用いて物理の理論の検証を行うものです。この場合、実験物理学者は、理論物理学者と理論化学者の中間に立って両者を結ぶ役割を果たしているのです。
生命科学の分野では、現在、新型コロナウイルスのためのワクチン開発が進んでいますが、このワクチン開発にも化学の知識は必要とされます。もし化学の知識がなければ、ミクロの尺度でウイルスの繁殖を妨害したり、新しい化学材料によってウイルスが人体に入り込むのを阻止したりなどできません。
また、マスクは一つの物理の技術によって製造されたものです。マスクは、ファンデルワールス力(分子と分子の間に働く弱い引力)というものを使って微細なウイルス分子がマスク表面にある物理的物質によって吸着され、ウイルスの侵入を防ぐ仕組みになっています。
つまり、生命科学の分野でも、薬やワクチン、マスクそれぞれに物理や化学の知識が必要なのです。それらの知識があってはじめて、どの方式を使って開発するかということが考えられるのです。このように、物理と化学は性質こそ異なっていますが、相互に関係し合っているのです。