山を削り、谷を埋めて発展してきた日本
地下水の汲み上げによる地盤沈下は、多くの場合、広い地域で起こるものですが、それだけでなく、立地条件に起因して、個々の建物で沈下が起きるケースもたくさんあります。これもまた、日本の経済成長が大きく関係しています。
先日読んだ本の中に、とある私鉄沿線の新興住宅地のことが書いてありました。都心から30分くらいの、多摩丘陵内に位置するその地域は、1960年頃までは、たった50世帯ほどの農家が散在する典型的な里山の風景だったといいます。それが、電車が開通し住宅地として開発された結果、現在では同じ地域内におよそ7000世帯が暮らしているのだそうです。40年あまりの間に世帯数140倍という急激な増加です。そうした人口増が、都心の人材需要を支え、日本の高度経済成長の原動力となったわけです。
しかしもちろん、50世帯だった土地に、何の対策も講じることなく7000世帯が暮らせるようになるわけはありません。その過程で、これまで田畑だった土地を造成し直し、山の上や斜面を切り崩し、谷や窪地を埋め立て、新しく住宅を建てられる土地を人工的に急拡大させていったのです。
住宅地ばかりではありません。
地方都市近郊へ行くと、平地に延びる国道バイパス沿いにはロードサイドの大型店舗が並び、また、その周辺の平地や丘陵地には、地域の経済活性化を狙って、大規模な工業団地や物流基地が造成されていることがあります。これらの多くもまた、もともとは田畑や、もっと起伏のある土地だったのです。
たとえば神奈川県の横浜市では、2006年度から2009年度にかけて、市内の大規模盛土造成地——つまり、谷などを大がかりに埋め立てた場所について独自に調査した結果を公開しています。